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宮城と沖縄。高度経済成長期の高揚を地方の視点で振り返る【what to do】

沖縄では復帰50年を記念した企画展が相次ぐ

「沖縄、復帰後。展」とはユニークな句読点の使い方。復帰後の沖縄の熱気と失望が展示資料を通して伝わってくる(撮影・高橋直彦)

そして、宮城から直線距離で1800キロ以上南下。今年、日本復帰50年になったのを記念して沖縄でも72年以降の沖縄の歩みを振り返る企画展が相次いで開かれている。那覇市の沖縄県立博物館・美術館もその一つ。「復帰50年特別展 沖縄、復帰後。展-いちまでいん かなさ オキナワ-」が9月19日まで開催中だ。

実は同展に先立って、「沖縄復帰前展 復帰 前夜ー。希う(こいねが)、未来。」展も8月21日まで開かれていた。いずれも偶然観ることができたが、概説書などを通して知った沖縄の近現代史の平板な知識が、様々なモノを通して立体的に浮かび上がってくるのが印象的だ。

右は海洋博のコンパニオンのユニフォーム類。左が復帰に伴い、自動車が右側通行から左側通行に変わるときの標識類(撮影・高橋直彦)

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展示は、72年5月15日の復帰記念式典の映像から始まり、75年の沖縄海洋博のユニフォーム、そして2000年代以降の連続テレビ小説「ちゅらさん」の放映や安室奈美恵さんらの人気による沖縄ブームについても、当時のポスターやノベルティーなどが展示してあって興味深い。コザで盛んだったディスコ文化の関連資料にも見入ってしまう。展示数は計約800点というから、沖縄県外の人にとっても、近過去の沖縄を体感できるまたとない機会になるだろう。

観覧者の関心に応じて広く応えてくれる企画

前期が10月16日まで。後期が10月22日から始まる。基地問題などが反映された作品も目立つ

同館では、美術を通して戦後沖縄を振り返る「復帰50年コレクション展 FUKKI QUALIA (フッキ クオリア)―『復帰』と沖縄美術」展も23年1月15日まで開催中。また、8月末に終了してしまったが、那覇市歴史博物館では「タイムスリップ EXPO’75 『望ましい未来』から海洋博を振り返る」展も開かれ、沖縄県外では目にする機会の少ない海洋博がらみの充実した資料を実見することができた。

終了してしまった「EXPO’75」展。菊竹清訓設計の「アクアポリス」へは是非行ってみたかった(撮影・高橋直彦)

高度経済成長と言っても、その過程は地方によって実に多様なことがわかった。東京で暮らしていると気づきにくいが、日本の戦後の道のりは決して一様ではないのだ。日常生活で消費され、あまりにも身近なため、一見価値がないとされる大量生産品が、時を経ると時代を雄弁に語り始めることも、これらの展示を通して知った。世の中、「断捨離」ブームらしいが、将来を見通して、実感を伴って過去を振り返るためにも、消費財をあえて「捨てないこと」も大切なのかも知れない。と、理屈はここまで。難しいことなど考えなくても、いずれの企画展でも展示品を眺めているだけでも楽しめる。観覧者の関心に応じて広く優しく応えてくれる有意義な企画である。

Profile

高橋直彦

『マリ・クレール』副編集長。1970年、小学校1年生の時に大阪万博を見に行って、鼻血が出るほど興奮した記憶がある。周囲の人気は今ひとつだったが、個人的に好きだったのがソ連館。その時の例えようもない楽しさから、75年の沖縄海洋博への参観も親にねだったが、叶わなかった。今回、沖縄で海洋博がらみの展示を観ていて、その時の切ない思いがかすかに甦ってきた。

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