朝倉摂さんの創作世界の全貌に触れられる貴重な企画展。看板左側の絵は、抽象化された女性像を追究した《群像》(1950年 顔料、紙 練馬区立美術館蔵)(撮影・高橋直彦)

企画展は「画家としての出発――リアルの自覚」「日本画と前衛――リアルの探求」「舞台美術の世界――イメージは発見」「挿絵の仕事――余白を造形すること」の4章仕立て。個人的には「挿絵の仕事」にぐっときた。『うりこひめとあまんじゃく』や『たつのこたろう』など、子どもの頃に好きだった絵本の描き手が朝倉さんだったことを今回知ったからだ。当時、はっきり意識していたわけではないが、描線が幼児向けにデフォルメされておらず、大人びていたのが気に入っていたらしい。日本画からの影響か、モダンな雰囲気が醸し出されているのも、そうした絵本が好きになった理由の一つだろう。松本清張の新聞連載小説『砂の器』にも挿絵を提供している。60年5月17日から61年4月20日まで読売新聞夕刊に掲載された全337分。挿絵は「『余白』を造形する作業」として、戯曲と舞台美術の関係に似ているとも朝倉さんは語っている。

練馬での展示は8月14日まで。あとわずかだが、時間を何とか見つけて駆けつけてほしい。「舞台美術家」という枠組みを超え、時代とがっぷり四つに組んできた創作者としての熱量を展示から体感することができるだろう。これだけは書籍や映像からは伝わらない企画展ならではの醍醐味だ。ただ、見逃してもチャンスが残っている。9月3日から10月16日まで、福島県立美術館(福島市)へ巡回するからだ。偶然だが、宮城県石巻市周辺ではアート・音楽・食の総合芸術祭「Reborn-Art Festival 2021-22」も8月20日から10月2日まで開かれており、東北を巡って「芸術の秋」を満喫する好機でもある。
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練馬区立美術館
福島県立美術館
アート・音楽・食の総合芸術祭「Reborn-Art Festival 2021-22」
高橋直彦
『マリ・クレール』副編集長。企画展という形でしか触れられない朝倉さんの創作世界を体感できる貴重な機会。2020年から21年にかけて東京都現代美術館で開かれた石岡瑛子展とも共通する熱気を会場から感じる。生前の朝倉さんの仕事をそれほど知らないと思われる若い世代が、展示に熱心に見入っている姿が印象に残った。