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鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」【ルイ・ヴィトンを飛躍させた画期的なトランクのデザインとは】

イラスト◎岸リューリ

ネックは重量。軽くするには?

ところで、当時のテクノロジーでは、トランクを直方体にすることは思いのほかむずかしかった。というのも、半円筒形トランクなら、積み重ねを考えずにすむので軽い材質の木で作ることができたが、直方体トランクでは上からの荷重を考慮に入れなければならないので、丈夫な木を使う必要があったからだ。しかし、木を丈夫にすればトランクがその分重くなる。

では、どうすればいいか?

骨組みにだけ丈夫なポプラ材を使って自重を軽くしておいて、あとは、トランクの壁自体を重みに耐えるような構造にすればいいのである。わかりやすくいえば、今日のツー・バイ・フォー住宅のような壁構造のトランクが理想的なのである。

だが、この壁部分に革を使うとどうしても自重がふえる。ならばいっそ、コーティングを施したズック布を用いてはどうか。

今日フランスの代表的企業となっているルイ・ヴィトンなどのバッグ会社は、このように19世紀に旅行形態が変わったときに、それに対応した新しいかたちのトランクを作りだすことによって大きく業績を伸ばしたのである。

いまも昔も、ハード構造が大きく変わったときに画期的なソフトを考えだしたものが企業戦争に勝利することに変わりはない。

【グリの追伸】日本の夏は全身毛だらけの猫にとっては、もう、ホントに大変です。人間は毛がなくていいな、と、つくづく思います。

シャルトリュー グリ
カーペットからは極力離れたい

text&photos by Shigeru Kashima

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Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰。

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