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鹿島茂と猫のグリの「フランス舶来もの語り」【ルイ・ヴィトンを飛躍させた画期的なトランクのデザインとは】

お暑うございます

バカンスシーズン、夏旅を計画している方も多いのでは? 旅に欠かせないアイテムといえばトランクですが、19世紀の半ばまで今とは違う形だったとか──。フランス文学者であり、その博覧強記ぶりでも知られる鹿島茂さんが愛猫のグリ(シャルトリュー 10歳・♀)とともに、今では私たちの生活にすっかり溶け込んでいる海外ルーツのモノやコトについて語ります。(本記事は鹿島茂:著『クロワッサンとベレー帽 ふらんすモノ語り』(中公文庫)から抜粋し作成しています)

旅の手段が馬車から鉄道・船へ変化

力学的にこれしかないというほど合理的な形態なので、昔から同じかたちなのだろうと思っていると、あにはからんや、昔はまったく別のかたちをしていたという事物がときとしてある。トランクなどはこの口だろう。

トランクというのは、現在、原則として直方体である。ところが、19世紀の半ばすぎまで、トランクは下部こそ直方体だが、上部つまり蓋にあたる部分は半円筒形だった。ようするに、ジュエリーボックスのような形をしていたのである。

では、なぜこんな格好をしていたのかというと、トランクを運ぶ輸送手段が大型の乗合馬車だったからである。こういっただけではピンとこない方は、旅行の際、乗客のトランクが乗合馬車のどこに置かれていたかを考えてみていただきたい。

屋根である。乗合馬車では、荷物はすべて屋根に載せ、これに幌をかぶせていたので、トランクの上部が丸いほうが幌が擦り切れず、都合がよかったのである。

ところが、交通手段が鉄道や大型汽船に代わると、この形のトランクでは逆に都合が悪くなる。なぜかといえば、トランクは専用の荷物室に入れて運ぶことになったので、何段にも積み重ねられる直方体のほうが便利だったからである。

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Profile

鹿島茂

かしましげる 1949年横浜に生まれる。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。2008年より明治大学国際日本学部教授。20年、退任。専門は、19世紀フランスの社会生活と文学。1991年『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、96年『子供より古書が大事と思いたい』で講談社エッセイ賞、99年『愛書狂』でゲスナー賞、2000年『職業別パリ案内』で読売文学賞、04年『成功する読書日記』で毎日書評賞を受賞。膨大な古書コレクションを有し、東京都港区に書斎スタジオ「NOEMA images STUDIO」を開設。書評アーカイブWEBサイト「ALL REVIEWS」を主宰。

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