パリのヨーロッパ写真美術館で、20世紀を代表する写真家の一人、アーヴィング・ペンの展覧会「PENN & FASHION」が開催されている。1947年から2008年まで約60年に渡るペンのキャリアをたどる本展覧会では、ディオールやバレンシアガ、イヴ・サンローラン、クリスチャン・ラクロワ、シャネルといった時代を象徴したブランドのクリエイティブを捉えた作品が並ぶ。
ペンの写真は厳格な構図、削ぎ落とされた美学、そして創造的独創性が大きな特徴だ。1950年、パリのヴォージラール通りにスタジオを構え、古い劇場のカーテンを背景に、バレンシアガ、ロシャスなど、パリを代表するオートクチュールを撮影した。演劇的な演出はすべて排除され、セット、小道具もなく、そこに存在するのは服とモデルだけだった。
Irving Penn, Cocoa-Colored Balenciaga Dress (Lisa Fonssagrives-Penn), Paris, 1950
Collection The Irving Penn Foundation, New York© Condé Nast1950年代の作品では、ペンの巧みなモノクロ表現が、戦後ファッションを特徴づけた服のボリューム、質感、素材の豊かさを際立たせている。ペンはキャリアを通じて、厳格な芸術的ビジョンと洗練されたシンプルな美学を貫いた。会場では、ペンの作品の多くは、ファッションという領域を超えて写真史のアイコンになったとも語られていた。
Irving Penn, Yves Saint Laurent Embroidered Cubist Cape with Braque-Inspired Design, Paris, 1988
Nicola Erni Collection, Zug© Condé Nast本展覧会で特に注目をしたいのが、1986年から1999年まで13年間にわたって続いた三宅一生とのコラボレーションだ。展覧会では二人の関係を「写真とファッションデザインの間で交わされた、最も重要な対話の一つ」と表現されている。
制作方法もユニークだった。ペンは三宅のファッションショーに一度も足を運ぶことなく、ニューヨークで服を受け取り、スタジオで撮影した後、カラーフィルムを東京へ送り返す、という方法だった。
「ペンの写真によって、私は自分自身のクリエイションを見ることができる」
三宅は二人の協働についてこう語っている。削ぎ落された彫刻的なフォルムと、ペンの写真家としてのビジョンが自然に響きあった。展覧会でも、13年間にわたる二人の間にあった互いの敬意と自由が強調されていた。
Irving Penn, Young Woman in a Net (Miyake Design), New York, 1993
Collection MEP, Paris. Acquisition ayant bénéficié du soutien de
The Irving Penn Foundation en 2020© The Irving Penn Foundationさらにこの関係はグラフィックデザインへ広がる。1987年から1999年にかけて、デザイナーの田中一光は、ペンのカラー写真を用いて、三宅一生のために60点以上のポスターを制作した。本展覧会では、そのうち三宅一生デザイン文化財団から貸し出された12点が展示されている。
ペンの写真を用いて田中一光が手がけた三宅一生のポスター作品Installation View of PENN & FASHIONPhoto: Quentin ChevriCourtesy of Maison Européenne de la Photographie衣服が写真となり、写真がグラフィックデザインへと展開される。三宅一生、アーヴィング・ペン、田中一光、それぞれの表現がつながっていく過程も、本展覧会のみどころのひとつだ。
「PENN & FASHION」は2027年1月17日まで開催。パリを訪れる機会があれば、ペンが捉えたファッションの世界を会場で目にしてみては。
text: Shun Tanaka