韓国での俳優デビューから数えて20年。日本デビュー10周年を記念して発売される写真集『ROAD AHEAD(ロードアヘッド)』は、ソウルの街を舞台に、飾らない表情や俳優としての深みを切り取った一冊だ。韓国でのキャリア、日本での10年を振り返りながら、46歳の今、これまでの歩みとこれからについて聞いた。
20年の原点、ソウルを歩く
10月17日に発売される写真集のコンセプトは、「誰かと一緒にソウルを旅するような、自然体の時間」。俳優としてのルーツである韓国・ソウルを歩きながら、素の表情や大人の色気を切り取った一冊だ。
「ポーズを取ったり決めていくというより、ソウルは本当に懐かしい場所でもあるから、リラックスして歩きながらとか、みんなと会話をしながら撮ってもらえました。10年、20年後に見ても、ありのままの姿がこれだったよねって思える作品になりました」
『ROAD AHEAD』より/ソウルの繁華街・乙支路で 撮影・前 康輔
ロケ地のひとつには、知り合いのご両親が営むホルモン店もある。大谷が韓国で活動していたころ、少女時代など人気アーティストが出演するテレビ番組「ルームメイト」でバイトを体験するコーナーに出演し、その打ち上げも行った思い出の店だという。
他にも、韓国に住んでいたころ度々通ったラウンジも訪れた。今はベーグル店に変わってしまったが、冬の日に中庭のストーブを囲んでワインを飲んだ思い出の場所だ。
「中庭の席で撮った写真は、ちょうど誰かがジュースをこぼして『わぁ〜!』とわちゃわちゃしてる中での一枚なんです。だから、本当に思い出でしかないですね。仕事で再び訪れたことで、そこにまた新しい記憶が加わった。懐かしみつつ、今を楽しんでいる。そんな感じで過ごしていました」
さらに、Tシャツと短パンでバレーボールをするカットもある。
「世に出るもので、こんな雰囲気のものはなかった気がします。掲載されている写真は全部好きですよ。自分で納得していないものは絶対入れてないので。そう考えたら、ありのままとか言いつつも、いいとこ取りかもしれません」と笑う。
乗り越えられなかった壁と、救われた言葉
韓国に渡ったのは20代のころ。言葉の壁は「乗り越えられないもの」だったと振り返る。外国人俳優への役のオファーが限られるのは当然で、1本終わると次の仕事が来るまでに間が空くこともあった。
「もう仕事がなくなるのかなって思うような状態は、たぶんずっと続いていました。もっとやりたい役はあったし、語学力があればできたのにという思いもありました。でも、韓国でこれだけ長く活動している外国人俳優はほかにいない。まわりから『こんなにやれている人はいないんだから』と言われることで、救われたこともありました」
そんな時期を支えてくれたのが、友人とバレーボールの仲間だったという。

一方で、俳優として活動するなかでは、身体的な苦労もあった。「あまり知られていないのですが」と話してくれたのが、時代劇の撮影中に負った大きなケガのことだ。本番中に剣が命中し、耳を二十数針縫うほどのケガを負った。衝撃で意識が薄れ、気づいたときにはアクションチームが駆け寄っていたという。古い病院のエレベーターを降りた瞬間、鏡に映った自分の姿を見て、初めて事の大きさを理解した。
「抜糸から1週間で現場に戻ったんですが、恐怖で、本音では『もうやりたくない』と思っていました。それでも、また刀を持って突っ込んでいきました。だからといって、その経験があったから今は何でもできるとか、ちょっとしたことではへこたれない、ということでもないんですけどね(笑)」
そんな経験も含め、2004年に渡韓してからの12年は今の俳優としての糧になっているのだろうか。そうたずねると、「また別物という感覚です」という答えが返ってきた。
「韓国での時間は今も宝物ですし、財産でもあります。でも、お芝居についてはそもそも韓国語でしていたし、キラー役だったり謎の人間だったり、特殊な役が多くて日本では転用しにくい。韓国で歩んできた道のりを、そのまま日本で生かせるわけではなく、日本でのスタートは、演技に関しては再出発という感覚でした」
「逃げ恥」から10年、積み重ねが教えてくれた
日本での俳優人生10年を振り返ると、「『逃げ恥』からもう10年」という言葉が出てきた。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)の当時、演技が棒読みのように見えると言われることもあったと口にする。
「『ミステリアスなキャラクターだったから』と、いいように受け取ってくださった方もいたんですけど、狙ったわけではなく、できなかっただけなんです」
作品への思いは今も強く、「もっとやれたはず」という悔しさも残っている。素直な気持ちを言葉にするその姿に、思わず「すごく人間味を感じます」と伝えると、こんな答えが返ってきた。
「取りつくろって話すことはしないようにしています」
作品を重ねるなかで、現場で芝居をする感覚が身についてきた実感はある。
「具体的に何かが一つひとつレベルアップしたというわけではないんですけど、今になって現場に入って芝居をする感覚みたいなものは、やっぱり作品を重ねてきたからこそ得られたものがものすごくあったと思います」
現場の瞬間がすべて
これから公開される2本の映画では、まったく異なる父親を演じている。
『遥かな町へ』では、過去にタイムスリップした建築デザイナー・中原博史役。人生の選択や家族の大切さを見つめ直す主人公だ。一方、『3ミリの恋』では、漁師で主人公の父・山本ミツオを演じる。
2作品に共通しているのが、役をあらかじめ作り込みすぎないことだという。
「最初に台本を読んだ時にインスピレーションが湧いてくるんです。でも、それを覚えて生かそうなどとは考えない。衣装を着て現場に入った時の、目で見たものや共演者との間から勝手に動かされるものを大事にしています」
一方で、そこで生まれた演技を監督に「良かった」と評価されると、次の撮影で同じことを再現しようとしてしまうという。
「無意識に出たものだから、『前と同じようにやろう』と思った瞬間に、もう違うものになってしまうんです。意識して同じことをやろうとすると、演技が段取りになってしまう。だから、自然に出てくるものをどう残していくか、いつも葛藤しています」
そんな彼が、これから目指す役者像とは——。
「自分がパッと画面に出た時に、人目を引くような、色のある役者になっていきたいですね。『大谷がやるから光ったよね、意味があったよね』と言ってもらえるような。ずっとスポーツをやってきてますが、スポーツでは年齢を重ねるほど現役でいることが難しくなる。でも、役者は年齢は関係ないものだと思うので、ずっと現役でいられるからこそ何を磨いていくかを考えることも、楽しい作業だと思っています」
取材の最後に、今の自分を支えているものについて聞いた。少し考えてから「ご褒美を考えていますね」と言って、くしゃっと笑った。
「仲いいやつらとご飯に行くのが好きです。お酒は強くないんですけど、そういう場が好きなんですよね。楽しくもあるし、不満もそこで爆発させています」
飾らない言葉で自分の内側を話してくれた大谷。過去を財産として抱えながらも、目の前の瞬間を大切にする。そんな現在地が、『ROAD AHEAD』には写し出されている。

photos: Tomoko Hagimoto
hair & make-up: Sayaka Tsutsumi
Styling: Junko Okamoto
text: Tomoko Komiyama
写真集『ROAD AHEAD(ロードアヘッド)』
10月17日(土)発売
価格:4500円(税込)
判型:A4判ソフト
ページ数:128ページ
詳細はこちら
「大谷亮平 1st写真集『ROAD AHEAD(ロードアヘッド)』お渡し会」
10月17日(土)東京都 ブックファースト 新宿店
詳細はこちら
10月18日(日)大阪府 MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店
詳細はこちら
映画『遥かな町へ』
10月9日(金)公開
監督・脚本:錦織良成 原作:谷口ジロー
出演:大谷亮平、及川桃利、磯谷萌々子、戸田菜穂、滝藤賢一ほか
上映時間:126分 PG12
配給:ムービー・アクト・プロジェクト
公式サイト
映画『3ミリの恋』
11月6日(金)公開
監督:全辰隆(チョン・ジニュン)
出演:黒川想矢、キム・ジアン、大谷亮平ほか
配給:東映、東映ビデオ
公式サイト
Profile
大谷亮平(おおたに・りょうへい)
1980年10月1日生まれ、大阪府出身。2004年に韓国へ渡り、モデルとして活動後、2006年にドラマでデビュー。以降、韓国のドラマ・映画に多数出演。2016年に日本へ拠点を移し、TBS系ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」などに出演。特技はバレーボール。