韓国では、読書をおしゃれなものとして楽しみ、その体験をSNSでシェアする「テキストヒップ」がトレンドに。英米では“本を読む自分”を演出する「パフォーマティブ・リーディング」やセレブによるブッククラブが話題になるなど、Z世代を中心に本を読むことを“クール”ととらえるムードが広がっているという。さらに、脳の健康にもよいとされる読書だが、米紙『The Washington Post』によれば、何を読むかによってさらなるメリットが期待できるそうだ。マリ・クレール インターナショナルのハンガリー版デジタル記事を、一部編集してお届け。
何を読むかも重要。このタイプの本は、特に脳によい影響をもたらす可能性がある
ミステリーや家族を描いた物語、あるいは恋愛小説を読むことは、単なる娯楽のように思えるかもしれない。しかし、頭の中で他人の人生に入り込み、登場人物の決断を理解しようとしたり、物語の世界を思い描いたりしている間、私たちの脳は活発に働いている。
読書そのものが脳によい影響をもたらす可能性があることは、以前から知られている。定期的な読書と高齢期における認知機能低下の緩やかさとの関連を確認する研究結果があり、過去の研究では、日常的に本を読む人はより長生きする可能性さえも示されている。しかし、最近の研究から、何を読むかも重要である可能性がわかってきた。意外なことに、そこで注目されているのはノンフィクションではないという。
フィクションは娯楽だけでなく、「他者の人生」を疑似体験できる
小説を読んでいるとき、私たちは登場人物が何を考え、何を感じ、なぜその言葉を口にしたのか、そして次に何をするのかを絶えず読み取ろうとしている。これは本質的に、実生活においてパートナーや友人、同僚、さらには見知らぬ人の行動を理解しようとするときに使っているのと同じ能力だ。これは心理学では、「心の理論」と呼ばれる能力の一部である。「心の理論」とは、他者が自分とは異なる考えや感情、信念、意図を持っている可能性があると認識する能力を指す。
カナダ・トロントのヨーク大学で心理学教授を務めるレイモンド・マー博士によると、フィクションは複雑な社会的・感情的状況をシミュレーションする機会を与えてくれるという。読書を通して、安全な環境で自分とは異なる視点に立ち、自分の人生とはかけ離れた経験にも触れることができる。
読書中の脳は、他者を理解するときと同じネットワークの一部を使っている
脳画像研究によると、物語を理解するときに働く脳のネットワークを構成する領域の一部は、他者の考えや感情を読み取ろうとするときにも働くという。つまり、小説の登場人物の意図を分析するとき、脳は日常生活における人間関係でも必要となる社会的能力の一部を働かせている可能性がある。
映画やドラマを見ているときにも同様のプロセスが起こる可能性はあるが、読書にはひとつ際立った特徴がある。それは、自分の頭の中で物語の世界を作り上げなければならないことだ。読書は映画やドラマと違って、登場人物の顔や部屋、街並み、雰囲気が最初から用意されているわけではない。私たちはそれらすべてを、言葉から想像する。そうやってより想像力を働かせる必要があることも、読書が複雑な脳の活動であるといわれる理由のひとつなのかもしれない。
自分とは異なる登場人物がもたらす意外なメリット
脳の健康に有益な本というのは、すぐに自分を重ね合わせられるような作品ではないのかもしれない。優れた小説は、自分とは異なる年齢や文化、価値観、状況に置かれた人物の心の中にも、私たちを入り込ませてくれる。それによって少なくとも数百ページの間、自分だけの視点からではなく、別の視点からも世界を見ることを求められる。
2022年に『Personality and Social Psychology Bulletin』に掲載された、5000人以上を対象とした研究によると、フィクションのなかでも文学作品を子どものころにより多く読んでいた人は、大人になってから、世界を単純化せず、より複雑なものとして捉える傾向があったという。
研究者たちによれば、こうした人々には、「心理的豊かさ」と「知的謙虚さ」がより顕著に見られることがわかった。「知的謙虚さ」とは、簡単にいえば、自分がすべてにおいて正しいとは限らず、現実はぱっと見ただけではわからないほど複雑である、ということを受け入れやすいということだ。
※ただし『The Washington Post』によれば、読書習慣には生活環境や本人の読書への関心などさまざまな要因も関係しており、読書がどの程度こうした違いにつながっているのかは、さらに検証が必要だという。
必ずしも古典である必要はない
短編や中編小説、コミック、ファンタジー小説、さらにはライトノベルやファンフィクションでも、読書によるメリットを期待できる。むしろ重要なのは、読書を習慣にして、定期的に何らかの物語の世界に没頭することだ。
※マー博士によると、一冊の本を読めばすぐに何らかの効果が得られるわけではなく、さまざまな物語に継続的に触れることが大切だという。また読書を習慣にしたいなら、まずは15分程度から始め、徐々に読む時間を延ばしていくことをすすめている。
オーディオブックだって「ずる」ではない
専門家によると、耳で聴く場合でも、私たちは物語を追い、登場人物を理解し、頭の中でその世界を作り上げている。さらに、『ユリシーズ』のように難解な作品のなかには、耳で聴くほうが理解しやすいものもあるという。つまり、忙しい日に物語に触れられるのが散歩中や移動中だけだとしても、気兼ねなく楽しめばいいのだ。
ブッククラブなら、異なる視点にも出会える
一見すると読書はひとりで楽しむもののように思えるが、簡単に社会的な体験にもなり得る。たとえばブッククラブでは、自分が登場人物や物語をどう捉えたかを考えるだけでなく、ほかの人が同じものをどのように解釈したのかにも耳を傾けることになる。
自分はどうしても好きになれなかった登場人物に、別の人は共感を覚えているかもしれない。また、自分にはまったく理解できなかった決断が、ほかの人には理にかなっているように思えることもある。そうやって、作者や登場人物の視点だけでなく、ほかの読者の視点にも触れることができるのだ。
※は編集部注
translation & adaptation: Akiko Eguchi
関連情報This article was originally published by Lampért Zsófia on
Marie Claire HUNGARY