韓国を代表する俳優チョン・イルが、日本のドラマに初出演する。7月17日から配信されているPrime Originalドラマ『犯罪者』だ。彼が演じるのは、刑事・フリーライター・生存者という3人の前に突如として現れる謎の男・滝川。20年近いキャリアで築き上げたイメージを一変させるダークなキャラクターに、彼はどう向き合ったのか。そして松永大司監督との4年越しの縁は、どのような化学反応をもたらしたのか。来日中のチョン・イルに、その全貌を聞いた。
7月17日(金)よりPrime Videoで世界独占配信されているPrime Originalドラマ『犯罪者』。白昼の駅前広場で起きた通り魔事件から始まる物語は、ただひとり生き延びた青年・修司(水上恒司)が病院で見知らぬ男から「あと10日生き延びれば助かる」という謎の警告を受けることから、想像を絶する事態へと転がり落ちていく。
犯人は事件直後に死亡しているはずなのに、なぜ修司は執拗(しつよう)に狙われ続けるのか。事件を追う刑事・相馬(高橋一生)、それを報じるフリーライター・鑓水(斎藤工)、そして生存者である修司。出会うはずのなかった3人が、社会に隠された巨大な陰謀へと立ち向かい、一つの事件の真実が少しずつ解き明かされていく――。
本作は、高橋一生、斎藤工、水上恒司によるトリプル主演のもと、テレビドラマ『相棒』シリーズの脚本で知られる太田愛の小説を、映画『エゴイスト』で国内外から高い評価を受けた松永大司監督が映像化したクライムミステリーだ。
そこに、先日、韓国を代表する俳優チョン・イルの出演が解禁となった。彼が演じるのは、主人公たちの前に突如として現れる謎の男・滝川。その素性も目的も多くが謎に包まれ、物語全体を貫く不穏な存在感を放つ。
映画『静かな世の中』でスクリーンデビューして約20年。時代劇の代表作『太陽を抱く月』(2012年)や『ポッサム〜愛と運命を盗んだ男〜』(2021年)などで知られ、韓国のみならずアジア全域に熱烈なファンを持つチョン・イルが、なぜ今、日本のドラマに出演するに至ったのか。その経緯には、4年越しの縁があった。
「松永監督とは4年ほど前に初めてお会いしているんです。『エゴイスト』が韓国で公開された際、私が映画を見に行って、その場でごあいさつをしたんですね。その後、私が出演した映画『高速道路家族』が日本で公開された時に監督が見てくださって、『いつか必ず一緒に仕事をしたい』とおっしゃってくださっていたんです」
そして今回、その言葉が現実になった。監督からオファーの電話がかかってきた時、チョン・イルはすぐに「ぜひやらせてください」と答えたという。その即答の背景には、彼が長く心に秘めていたひとつの思いもあった。
「俳優として20年ほどキャリアを積んでいくと、こう固まったイメージというものができてくるんですね。だから私は常に、そのイメージを壊して変わりたいという渇望を持ち続けていました。そんな時に監督から連絡をいただいて、今までにないキャラクターをやってみないかと言っていただいたので、その場で即答したんです」
『犯罪者』でチョン・イルが演じる滝川は、哀れみの感情を持たず、複数の罪を犯す謎めいた人物だ。一見すると優しそうな表情を持ちながらも、その内にはどこかダークなものを秘めている。まさに「善人の顔をした悪の存在」。これまでのチョン・イルのイメージを一変させるキャラクターである。
この役と真摯(しんし)に向き合うべく、彼は原作小説を繰り返し読み込んだという。
「なぜこの行動をするのか、なぜこのセリフを言うのか。そういった問いをひとつひとつていねいに考えながら、滝川という人物を作り上げていきました。また、元々原作では日本人の役なのですが、監督が私を選んでくださったことで、韓国人のキャラクターに変わったんです。それなら韓国的な表現として何ができるだろうと考えた末に、くるみを使う小道具を提案しました。韓国では年配の方が指圧用にくるみを使うことがあるのですが、それを滝川に取り入れたらどうかと。監督もそのカリカリ……という音が恐怖心を誘発するし韓国的な感じがいいと喜んでくださって、採用してもらいました」
そして本作において、チョン・イル自身が最も驚かされたのは、松永大司監督の演出だったという。
「監督が一貫して求めていらっしゃったのが、演技の引き算なんです。俳優というのは、自分のキャラクターや演技を証明しようと、どうしても表現をこう前に出そうとするじゃないですか。でも監督はずっと、『それを抑えてください』とおっしゃっていた。今回、来日して初めて自分の映像を見たのですが、自分にこんな表情があったのかと思うぐらい、新しい姿を発見することができました。多くのスタッフの方にも、『こんなチョン・イルは見たことがない』とおっしゃっていただけました」
松永監督の現場は、リハーサルや段取りも徹底して数をこなし、本番に臨むというスタイルなのだそう。
「俳優同士の呼吸を合わせ、その状況にしっかり入り込める時間を作ってくださっていました。俳優として本当にありがたかったです」と語る。
共演した高橋一生をはじめ、作品に関わった俳優・スタッフ全員が「本当に幸せな現場だった」と口にするこの作品。チョン・イルもその現場の空気感を強く感じたという。
「高橋さんをはじめ、斎藤さん、水上さんなど、皆さんが本当に最善を尽くして、情熱を持って演技に臨まれていました。その姿を見ていると、自分自身ももっと頑張らないと、と刺激を受けましたし、手加減をせずに全力を尽くさなければいけないなと思いました。特に高橋さんは子役から演技をしていらっしゃる方で、本当に素敵な俳優さんだなと感じました。一緒に撮影をしながら、たくさんのことを学びました」
日本初出演作での共演者たちとの出会いもまた、彼の財産となったようだ。
撮影の場となったひとつに、静岡県の浜松がある。約2か月にわたる撮影期間中、心身を支えたのは、自身で作る手料理だった。
「浜松で梅を買って、梅干しを使ったボンゴレパスタを作ったんですよ。それをYouTubeにアップしたんですが、その時は撮影中だとはまだ言えず、出張中とだけ表現していました。今になってようやくネタ明かしができますね」と笑う。
温泉に浸かり、ヨガやジムで体をほぐしながら、肉体的にもハードなキャラクターを演じ抜いた。
チョン・イル自身も「日本での初めての作品だからこそ、全てのエネルギーを注ぎ込みました。長い間、作品を通じてファンの皆さんに演技を見せたいという思いをずっと持ち続けていたので、ついにその夢がかなった気持ちです」と語る。
渇望していたイメージの刷新。4年越しの縁が実を結んだ監督との仕事。浜松での充実の日々と自身も知らなかった表情との出会い。チョン・イルにとって『犯罪者』は、俳優としての新たな扉を開いた一作となった。
社会の深淵(しんえん)に立ち向かう3人と、その陰でうごめく謎の男・滝川。作品の中でどんな存在感を見せているのか、是非チェックしてほしい。
photo: Tomoko Hagimoto, text: Tomoko Komiyama
Prime Originalドラマ『犯罪者』
2026年7月17日(金)よりPrime Videoで世界独占配信
原作:太田愛『犯罪者』(角川文庫/KADOKAWA)
監督:松永大司
脚本:櫻井武晴
音楽:川井憲次
キャスト:高橋一生、斎藤工、水上恒司 ほか
制作・製作著作:PROTX
作品詳細ページ:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0H5B41YXS