世界の創造力がここに集う。文化へと進化する「ミラノ デザイン ウィーク」2026

Culture

2026.07.26

世界の創造力がここに集う。文化へと進化する「ミラノ デザイン ウィーク」2026

家具の見本市として始まったミラノサローネは、今や街全体を巻き込む文化イベントへと進化を続けている。ファッションメゾンから伝統工芸まで、多彩な表現が街中に広がった2026年の「ミラノ デザイン ウィーク」から、体験や物語を重視する新たな価値観、今注目すべきデザインの潮流をお届け。

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家具見本市から複合的文化のプラットフォームへ

「ミラノ デザイン ウィーク」発、空間を彩る新しいラグジュアリー


家具見本市から複合的文化のプラットフォームへ

「ミラノサローネ(Salone del mobile.Milano)」(以下サローネ)は1961年に家具産業振興を目的として創設され、イタリアデザインの国際的地位を確立する中心的イベントへと成長した。1980年代以降は海外ブランドの傘下拡大によりグローバル化が進み、現在ではミラノ全体を巻き込む「ミラノ デザイン ウィーク」として世界的な認知を受けている。2026年のサローネ参加件数は約1900。フィエラと呼ばれるサローネの主会場を訪れた人の数は約31万人。昨年より4.3%増えている。

パラッツォ・セルベローニにて幾何学的な作品で知られるアーティスト、ピエール・ルグランにオマージュを捧げたコレクションを発表した「ルイ・ヴィトン」
©Louis Vuitton

サローネと共にこの構造を支えているのが「フォーリサローネ」である。「フォーリサローネ」は公式展示会場フィエラとは異なって、ミラノ市内の画廊や歴史的建築物内、ショールーム、工場跡、路地空間などを舞台に、企業やデザイナー、建築家等が、自主的に展開する分散型イベント群である。統一された主催者を持たずテーマも会場も多様であることから、サローネ本体が「産業見本市」であるのに対し、「フォーリサローネ」は「都市全体に及ぶ文化実験場」として機能している。近年では、来場者の多くがこちらを目的に訪れるほどに重要性が高まっている。

「グッチ」はミラノ中心部に位置する歴史的建造物を舞台に、105年にわたるブランドの軌跡をたどるタペストリーを展示するエキシビションを開催 Courtesy of Gucci「グッチ」はミラノ中心部に位置する歴史的建造物を舞台に、105年にわたるブランドの軌跡をたどるタペストリーを展示するエキシビションを開催
Courtesy of Gucci

サローネの近年の全体傾向として最も重要なのは、「製品中心」から「文化、体験中心」への転換である。もはや、評価軸は家具単体の機能や造形ではなく、空間体験、物語性、持続可能性等の思想性となり、従って展示はインスタレーション化している。住まい、アウトドア、さらには持続可能性、素材研究、クラフトの再評価が共通テーマとして浮上し、デザインはまさに産業から文化的実践へと変容している。

「ニュールック」へのオマージュを込めた新作「コロール」ランプを発表した「ディオール」。幻想的なセノグラフィーと共に職人技の魅力を披露 ©NICOLO DE MARCH「ニュールック」へのオマージュを込めた新作「コロール」ランプを発表した「ディオール」。幻想的なセノグラフィーと共に職人技の魅力を披露
©NICOLO DE MARCH

近年サローネへの参加が一般化しつつある高級ファッションブランドは、こうした流れを如実に示している。

「プラダ」や「ミュウミュウ」は、文学者や思想家によるトークイベントを実施し、ブランドを文化的な媒体として提示した。「グッチ」は、サンシンプリチャーノの広い回廊の壁面に、昔の絵画を現代の暮らしに置き換えて表現し直した織物を展示した。「ルイ・ヴイトン」は、1920年代にアーティストのピエール・ルグランと協業したアーカイブを土台に、様々な暮らしのデザインを発表。「ディオール」は、複数の職人の14日間に及ぶ手仕事の成果たる、葦で編んだ植物を張り巡らせた空間を見せた。「ボッテガ・ヴェネタ」は、銀色のアルミと黒く染めた皮革という2種の素材の対比を強調した展示を通じてアルミの家具を提示した。「アルマーニ カーザ」は静謐な生活の美学を見せることで東洋の影響を漂わせ、「ジル サンダー」は、コンセプチュアルなミニマリズムのアートの展示を見せた。「エルメス」は白を基調としたシンプルな空間で、新作のオブジェにフォーカスをあてた展示を展開していた。

韓国人アーティストのイ・カンホとのコラボレーションによるインスタレーションを開催した「ボッテガ・ヴェネタ」。空間に浮かぶように吊り下げられた編み込みの構造体に光と影を重ね合わせたダイナミックな表現韓国人アーティストのイ・カンホとのコラボレーションによるインスタレーションを開催した「ボッテガ・ヴェネタ」。空間に浮かぶように吊り下げられた編み込みの構造体に光と影を重ね合わせたダイナミックな表現

「エルメス」は30の直方体が街のように並ぶ会場で、メタルにフォーカスをあてた新作を発表。職人技と素材美が響き合う詩的な空間を創出した ©Hermès「エルメス」は30の直方体が街のように並ぶ会場で、メタルにフォーカスをあてた新作を発表。職人技と素材美が響き合う詩的な空間を創出した
©Hermès

和の文化への関心を示す今回のサローネでは、日本勢も高い注目を集めていた。

京都の細尾は、アーティストで音楽家でもあるカールステン・ニコライと組んで西陣織を空間のインスタレーションへと展開し、音と組ませて伝統技術の現代的な構築を見せた。同じ京都の「龍村」は織物の美学を空間の装飾に展開し、伝統技術の再解釈を試みた。「グランド セイコー」は、時間の概念の可視化を提案。「カリモク」が、卓越した木工技術による、温もりのある家具を発表すれば、「タイムアンドスタイル」は、低めで大型のソファによってのびのびとした住空間を作り上げた。「イッセイ ミヤケ」は生産工程に不可欠な大量の使用済みの紙を利用したオブジェ各種をブティック空間内に展示。これらの白い彫刻は、素材といい、不定形なフォルムといい、日本を語るものであった。

今年度のサローネのニュースは「サローネ・ラリタス」という部門が新たに加えられたこと。ここではコレクタブルデザインや一点ものの作品あるいは骨董家具を扱う。アートとデザインおよび骨董品の境界領域を扱う部門として新設されたものである。また、もうひとつの新設部門「コントラクト」は、ホテル、オフィス、公共空間などの大規模案件領域を扱い、住宅中心の家具産業から都市や建築などへの拡張を示す枠組みとして新たに用意された。

ミラノサローネに新企画として登場した「サローネ・ラリタス」。限定作品や希少なデザインを集め、クリエイターと世界のプロフェッショナルをつなぐ場となる。写真は「MARTA SALA ÉDITIONS」の展示ミラノサローネに新企画として登場した「サローネ・ラリタス」。限定作品や希少なデザインを集め、クリエイターと世界のプロフェッショナルをつなぐ場となる。写真は「MARTA SALA ÉDITIONS」の展示

総じて、2026年度のサローネは、家具見本市というこれまでの枠組みを越えて、プロダクト、ファッション、アート、建築、都市にまたがる複合的文化のプラットフォームへと進化している。今や、その中心には、物ではなく、意味と体験を価値とする新しいデザイン観が君臨し始めたようだ。

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