パリのパレ・ド・トーキョーで7月20日まで開催されている「ポメラート ─ 革新のジュエラー」展。1967年の創業以来、ポメラートが起こしてきた数々の「革命」をひも解くパリ初の展覧会は、デザインやクラフツマンシップだけにとどまらず、広告作品を通して描かれてきた女性像、そしてウーマンズエンパワーメントへと続くブランド哲学までを体験できる展示となっている。
ポメラート グループCEOのサビーナ・ベッリは、「ポメラートは、大きな変革の時代に誕生しました。それまでジュエリーは男性が資産の一部として購入するか、または男性から女性へ贈るものでしたが、女性自らが自由や自立を求め始めた70年代、私たちもまたジュエリーの世界で新しいビジョンを切り開いたのです」と語る。
その言葉どおり、本展で語られる「革命」とは、デザインだけを指すものではない。ジュエリーの概念、ブランドの表現、そして女性の生き方そのものにまで及ぶ、60年近くにわたる挑戦の軌跡を垣間見ることができるのだ。
本展最大の見どころは、ジュエリーだけでなく、ポメラートが半世紀以上にわたり世界最高峰の写真家と築き上げてきた広告表現にある。ジャン・パオロ・バルビエリ、ヘルムート・ニュートン、アルバート・ワトソン、ホルスト・P・ホルスト、ハーブ・リッツ、スノードン、ハビエル・バリョンラット、ミシェル・コント ── 彼らが撮影したキャンペーンは、広告でありながら美術館に展示される芸術作品として成立している。今回の展覧会では、それらの写真と実際のジュエリーが互いに呼応するように展示され、ブランドの世界観を立体的に体感できる構成となっている。
Photo by Gian Paolo Barbieri Pomellato Advertising, Milano, 1971 フォトグラファー、ジャン・パオロ・バルビエリによる1971年の作品。まるで双子のように見えるが、同じ女性を二重に写した画期的な写真。女性を2つの視点から見せるというアイデアもポメラート的な女性像だ
なかでも印象的なのは、色彩豊かなジェムストーンをブランドの象徴としながら、その代表作の多くはあえてモノクロ写真で撮影されているところだ。美しく見せることが広告の目的となるが、ポメラートの写真の主役はジュエリーではなく女性だ。ヘルムート・ニュートンの力強いポートレートでは、カラーストーンの鮮やかさよりも、女性の存在感そのものが際立つ。
Helmut Newton, Pomellato, Paris, 1982 copyright Helmut Newton Foundation / TrunkArchive フォトグラファー、ヘルムート・ニュートンによる1982年の作品。あえてモノクロで、写真の主役は女性、ジュエリー自体にフォーカスしないという大胆な作品だ
「私たちは女性を理想化したモデルとしてではなく、人格や知性、自立した存在として描いてきました」というブランドの姿勢は、作品全体から伝わってくる。男性が写る作品でさえ、視線を支配してるのは女性であり、1980年代のラグジュアリー広告としては驚くほど先進的であった。「女性が状況を支配し、自らの人生を選択する存在として写っていることこそ、ポメラートの女性像でした」とサビーナは語る。
Helmut Newton, Pomellato, Paris, 1982 copyright Helmut Newton Foundation / TrunkArchive 同じくフォトグラファー、ヘルムート・ニュートンによる1982年の作品。男性をまるで誘導するかのような力強い女性像が表現されている
写真家ごとの個性も見逃せない。ジャン・パオロ・バルビエリは映画のワンシーンのような構図とミラノらしいセンシュアリティーで女性を描き、アルバート・ワトソンとホルスト・P・ホルストは静かな自信をたたえた女性像を創り上げた。ハーブ・リッツは彫刻のような光と影によって身体とジュエリーを一体化させ、スノードンやミシェル・コントは、それぞれ異なる視点から90年代の自立した女性たちを写し出している。広告でありながら、一人ひとりの女性の物語を語る作品として成立している点こそ、ポメラートならではの表現だ。
1985, Photo by Albert Watson 1985年、フォトグラファー、アルバート・ワトソンによる、ポメラートを代表するチェーンの作品をあえて男性モデルの顔に付けるという画期的なアイデア

1990年、フォトグラファー、ハーブ・リッツによる身体とジュエリーの関係を生々しく描いた作品
もちろん、ジュエリーそのものも見どころである。ポメラートが最初に起こした革命は、工業用チェーンをジュエリーへと昇華したことだった。リンク一つひとつは高度な金細工技術によって作られ、しなやかに肌へ寄り添う。会場にある巨大なチェーンのインスタレーションは、その象徴といえる。
会場にはブランドを象徴する巨大なチェーンのオブジェも登場
さらに、ポメラートが起こしたもう一つの革命がカラージェムストーンだ。「フリージェム」という哲学のもと、ダイヤモンドを頂点とする価値観から解放し、ストーンそのものを主役へと押し上げた。「ヌード」をはじめとするリングが並ぶ展示では、色彩そのものが、身につける人の感情や個性を語る言語となっている。
色とりどりの色彩を放つ「ヌード」のリング
そして展示の最後は、「Pomellato for Women」へとつながる。サビーナ・ベッリは「女性は誰かによって定義される存在ではなく、自ら選び、自らを表現する存在です」と語る。その理念は、2017年に始まった社会活動へと発展し、ジェンダー平等や女性への暴力根絶に向けた取り組みへと結実した。
この展覧会は、ジュエリーの歴史を語るだけではない。そこに写し出されるのは、時代とともに変化してきた女性たちの姿であり、その歩みに寄り添ってきたポメラートの哲学だ。写真、ジュエリー、クラフツマンシップ、そして社会へのメッセージ。そのすべてを見届けたとき、「革命」という2文字が、ようやくひとつの物語として心に刻まれる。
text: Keiko Suyama
POMELLATO, LE JOAILLIER RÉVOLUTIONNAIRE(「ポメラート ― 革新のジュエラー」展)会期:2026年6月24日~7月20日
会場:Palais de Tokyo(パレ・ド・トーキョー)
入場無料。
特設サイトにて予約受付中。