末永光と尾上眞秀、マルコス浄瑠璃『金閣寺』の世界に挑む

Culture

2026.07.15

末永光と尾上眞秀、マルコス浄瑠璃『金閣寺』の世界に挑む
「美が、私を滅ぼした。」、そんな挑発的なコピーを掲げた舞台がこの夏公演される。スペインの鬼才マルコス・モラウが演出・振り付けを手がける「マルコス浄瑠璃『金閣寺』」だ。文楽、歌舞伎、ダンスが一つの舞台に混在する世界初演作品に、末永光と尾上眞秀というふたりの若き才能が挑む。稽古が本格化する前だという6月、ふたりに話を聞いた。

文楽人形、歌舞伎、ダンスが交差する舞台

2026年8月29日(土)から9月6日(日)まで、東京芸術劇場 プレイハウスにて、「マルコス浄瑠璃『金閣寺』」が上演される。原作は1956年に三島由紀夫が発表した小説『金閣寺』。金閣寺の美しさに囚われた青年が、その美を焼き滅ぼすまでを描いた作品だ。

この難題に挑むマルコス・モラウは、パリ・オペラ座やアヴィニョン演劇祭など欧州の舞台芸術を席巻している演出家で、彼が文楽と出会い、人形と人形遣いの間に「操る者と操られる者の境界が溶ける」感覚を見いだしたことが、今回の作品の核心にある。

舞台には文楽人形遣いの吉田玉助、歌舞伎俳優の中村壱太郎と尾上眞秀、STARTO ENTERTAINMENTジュニアの末永光、そして世界各国から選ばれた7名の精鋭ダンサーが集う。

文楽人形が舞台を動き、歌舞伎俳優がその体を人形のように操る「人形振り」を披露し、ダンサーたちが黒子として舞台全体を支える。人が人形になり、人形が人になる——そんな境界が溶けていく瞬間を、三島文学の「美と滅び」というテーマと重ね合わせた唯一無二の舞台となるだろう。

衣裳は長年マルコスの衣裳デザイナーをつとめてきたシルヴィア・ドゥラニョーが手がけ、日本の伝統美と西洋的な感覚が融合したデザインが舞台を彩る。音楽もまた、竹本連中の語りにバルセロナ出身の歌手・作曲家マリア・アルナルの声が重なるという、これまでにない音の世界となりそうだ。

末永光

末永光
2008年生まれ。STARTO ENTERTAINMENT 所属。2021年よりジュニアとしての活動をスタート。端正なたたずまいの奥に、ふと立ち現れる繊細な表情を備え、その少年性は三島文学が描く〈美〉と〈フラジャイル〉と重なり、本作の空気を形づくる。来日したマルコスが稽古場で最も強い反応を示したのが末永だった。提示された振付の意図を瞬時に読み取り、説明を待たず動きとして示した理解力と即応性が、舞台の要に据える決断へと直結する。本作では7名の精鋭ダンサーに導かれながら、物語を推進する役割を担う。変化の途上にある17歳が、舞台上でどのような飛躍を遂げるのかも見逃せない。

初めてだらけの挑戦

末永光にとって、この舞台は「初めて」の連続だ。

「普段は同じ事務所の仲間と一緒にパフォーマンスしているので、1人で舞台に立つのは初めてなんです。しかも文楽や歌舞伎の方たちとの共演も初めてで。この舞台のお話をいただいたとき、本当にびっくりしました」

さらに本格稽古が行われるバルセロナへの渡航も予定しており、今回が人生初の海外になるという。「うれしいとドキドキと、いろんな気持ちが混ざってます」と笑顔を見せた。

尾上眞秀にとっても、ダンスの要素が入った舞台は新鮮な経験だ。昨年の森山開次演出「Kバレエ・オプト『踊る。遠野物語』」に続く、歌舞伎以外の舞台への挑戦となる。

「コンテンポラリーの体の使い方が本当に勉強になっています。どこを支点にするとどこが動く、みたいなことを、毎日発見しながら稽古しています」と、初めての経験を楽しんでいる様子。

『金閣寺』に向けたダンスレッスンは、2人にとって未知の動きの連続だと話す。

「動物みたいな動きとか、赤ちゃんみたいな動きとか、これはダンスなのかな?と思うような動きがいっぱいあって」と末永は言う。以前参加したマルコスのワークショップでは苦戦しながらも、「『普段の自分という役割から外れすぎなくていい』と言われて、すごく安心しました」と、当時印象に残ったという言葉を教えてくれた。

眞秀は「人形振りの稽古はしているけれど、まだお客様の前で披露はしていない」と言いながらも、DVDで見て気づいたことを教えてくれた。

「人形振りは後ろで操っている人によってどう動くかが変わってくるので、後ろの人はとても大事なんじゃないかと思うんです」。実際に稽古をする前から、その本質を自分なりにつかもうと励んでいる。

尾上眞秀

尾上眞秀
名門・尾上家の寺島しのぶとフランス人アートディレクターの父、七代目尾上菊五郎を祖父に持つ13歳の若き俳優。2023年に初代尾上眞秀を名のり歌舞伎座で初舞台。国立劇場特別賞を二度受賞する他、映画『港のひかり』で映画初出演、森山開次演出『踊る。遠野物語』では初舞踊作品に挑み、その表現の幅を大きく広げた。本作では、壱太郎に付く「子人形」として舞台に立ち、呼吸を重ねながら役を形づくっていく。歌舞伎舞踊という確立された伝統とマルコスの演出が交差する場で何を掴み取るのか、期待が高まる。

人見知り同士、少しずつ打ち解けた

末永と眞秀の稽古場での出会いも、ほほえましいものだった。

「最初はお互い緊張していて、あんまりしゃべれなかったんです。おとなしい子なのかなと思っていたんですが、だんだん稽古を重ねるごとにやんちゃな部分も見えてきて」と末永。

眞秀も「最初は全然話しかけられなくて、慣れていくごとに少しずつ心を開いていけました」と照れ笑い。学生同士、学校の話で盛り上がることもあるという。

稽古場でお互いをどう見ているか聞くと、末永は「眞秀君は体がとにかく軽くて、難しい動きもこなしていてうらやましいです」と称え、眞秀は「末永君は『難しい』って言いながら稽古をしているけれど、そばから見ると簡単そうに見えるんです。そういうところがすごいなと思ってます」と末永への尊敬を口にした。

バルセロナ、そして舞台へ

8月からの本番を前に、これから2人はバルセロナでの本格稽古に入るという。そこには、世界各国から1200名を超える応募者の中から選ばれた、精鋭ダンサーたちとの共演が待っている。

「レベルが段違いだと思うので、すごく緊張しています。でもたくさん学べることもあるし、時間を大切に過ごしたいです。マルコスさんともダンサーの方たちとも話せるように、まずは英語を頑張ります」と末永は語る。

スペイン語の勉強も始めているという眞秀も「世界トップレベルのダンサーの方たちと一緒に踊るなんて、まだ信じられないくらいです。すごく緊張しているけど、本当に貴重な経験だと思うので」と期待と緊張が入り混じった表情を見せた。

三島作品と日本の伝統芸能である浄瑠璃が、マルコスの演出でどんな舞台として立ち上がるのか。末永光と尾上眞秀のふたりが飛び込む『金閣寺』の世界が、今から楽しみでならない。



Information
Bunkamura Produce 2026 マルコス浄瑠璃『金閣寺』
2026年8月29日(土)〜9月6日(日)/全10回
場所:東京芸術劇場 プレイハウス
公式サイト:https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/26_marcos/

photo: Tomoko Hagimono, Hair&make-up: Hattori Yukio(Make-up Room Plus)、三河内靜香, text: Tomoko Komiyama

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