今年2月に第1子となる女の子を出産したトリンドル玲奈さんが、6月19日(金)開幕のKERA CROSS第七弾『シャープさんフラットさん』で舞台に復帰する。KERA CROSSとは、劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチの選りすぐりの作品を毎回違う演出家たちが異なる味わいで新しく創り上げる連続上映シリーズ。今回は、ケラリーノ自身が半自伝的戯曲という作品をマギー氏が演出した。母となった今だからこそ見えてきた新しい価値観とともに、産後初舞台への思いを語ってくれた。
念願だったKERA作品への出演
『シャープさんフラットさん』の出演が決まったのは、今から1年半ほど前のこと。もともとケラリーノ・サンドロヴィッチ作品に出演してみたいという思いが強くあり、それが今回、特別な縁と重なった。
「私にとって初めての舞台がマギーさんの演出でした。今回の『シャープさんフラットさん』も、自分のことを知り尽くしてくださっているマギーさんの演出で、念願のKERAさんの舞台に挑戦できる。自分にとってベストな機会だと感じて、すぐに出たいと思いました」
『シャープさんフラットさん』は、1990年代初頭のバブル崩壊直前を舞台に、サナトリウムに集う社会とのズレを抱えた人々を描く群像劇。劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチの半自伝的戯曲で、世間の価値観や“普通”から少しはみ出してしまった人々の姿を、笑いと哀愁を交えながら描き出す。現実と夢の世界が交錯し、細かなユーモアが随所にちりばめられている。
「考えれば考えるほど深いお話です。1回読んだだけではなかなか理解できなくて、何度も読み返しました。稽古を重ねながら少しずつ作品の輪郭が見えてきている感覚があります」

トリンドルさんが演じるのは、サナトリウムの職員・成瀬南(通称:南ちゃん)。
「南ちゃんは、周囲のクセの強いキャラクターたちの中では一番コミュニケーション能力があるタイプです。すごくよく笑う役なのですが、マギーさんから『トリちゃんが普段ツボに入って笑いが止まらなくなってしまうところを出してほしい』と言われました。今、稽古場でも私だけがすごくよく笑っていますね(笑)。自然と自分らしさを重ねられている役だなと感じています」
役づくりについては、自分から作り込むというよりも、周囲の空気のなかで育てていく感覚に近いという。
「今回は台本を読み込んで役を作るというより、稽古場で皆さんのお芝居やマギーさんの演出から学びながら役を深めています。役に入る前の皆さんの姿を見ていて、『こういうふうにメモするんだ』『こうやって準備するんだ』と、毎日勉強しています」
KERA氏も稽古場を訪れ、作品の背景を伝えるなどしているのだとか。
「舞台はその日の空気で反応が変わるのが難しくもあり、とても楽しい部分でもあります。マギーさんは、KERAさんの世界を初めて見る方もすっと入りやすい演出をしてくださるので、毎日とても刺激的です」
娘がくれた、新しい時間の使い方
プライベートでは2月に第1子となる長女を出産した。
「本当にかわいくてしかたがないです。朝、娘が起きる少し前にのぞき込むと、私の顔を見た瞬間に満面の笑みを返してくれて、朝一番からとんでもなく幸せな気持ちになります」
昨年の秋頃から仕事をセーブし、出産後はしっかり休養。その後はピラティスやウォーキングで少しずつ体調を整えてきた。夫の協力も大きく、「半々ぐらいで子育てできているおかげで今がある」と話す。
今は育児と並行しながらの舞台稽古だが、意外にも時間の使い方は以前より上手になったという。
「以前は家に帰ってからご飯を食べたり、ひと息ついたりしているうちに、気づけば夜遅くなっていました。でも今は、帰宅して授乳して、お風呂に入れて、寝かしつけをして……と動いていると、夜9時過ぎには自分のタスクも全部終わっているんです。今思うと、出産前はのんびりと時間を使っていたんだなと思います(笑)。ほかにも、以前は睡眠時間さえ確保できればいいと思っていましたが、今は早く寝て早く起きることの気持ちよさも実感しています」

家電ができるものは家電に任せ、娘と過ごす時間を最優先にする。その分、仕事への向き合い方や自身の体調管理への意識も変わった。
「今しかない時間だから、稽古中はすごく集中して、逆に家にいる時間は娘との時間に集中する。切り替えは以前よりできるようになりました。あと、母乳をあげていることもあって食事も見直したので、より健康的な生活になっていますね」
自分以外の誰かを、自分以上に大切に思える幸せ
20代の頃から、トリンドルさんは「自分はお母さんになるタイプではない」と思っていたという。
「私の仕事って自分自身が商品でもあるので、自分を大事にしなければいけないという気持ちが強かったんです。だから私はずっと、お母さんになるタイプではないと考えていましたし、自分の母親のように、自分よりも誰かを大切に思えるのだろうかという不安も感じていました」
しかし、その思いは出産の瞬間に変わった。
「生まれた瞬間に、『自分より大事』だと思えたんです。きっと神様が『あなたみたいなタイプは、お母さんにならないと成長しないよ』と教えてくれたのかな、という気がしています。もちろん、結婚や出産だけが人生の正解だとは思っていません。でも私の場合は、子どもが笑ってくれるだけで自分も笑顔になれることが本当に多くて。生活リズムも整いましたし、母になったことで見えてきたものがたくさんある気がします。もちろん大変なことはたくさんありますが、こういう毎日は自分に合っていたのかもしれません」

母となった今、娘に伝えたいこともできた。
「私の仕事はいろいろな方と関わることが多くて、毎日違う現場に行くこともあるので、とても刺激的なんです。娘にも、いろんな人と関わることは楽しいんだよ、ということが伝わったらいいなと思っています。『ママ、楽しそうだな』と思ってもらえたらうれしいですね」
母になり、新たな価値観を得た今。俳優としては、いよいよ産後初舞台の幕が上がろうとしている。最後に、公演を楽しみにしている人たちへメッセージを寄せてくれた。
「初演をご覧になった方も、初めてご覧になる方も、それぞれの楽しみ方で観ていただけたらうれしいです。観てくださる方の心に何かが残る作品にしたいと思っています。KERAさんの世界に初めて触れる方にとっても、マギーさんの演出によって、すっと入りやすい舞台になっていると思います。ぜひ劇場に足を運んでいただけたらうれしいです」
photo: Tomoko Hagimoto text: Tomoko Komiyama
InformationKERA CROSS 第七弾『シャープさんフラットさん』
作:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出:マギー
出演者:柄本時生、高梨臨、安達祐実、田中俊介、トリンドル玲奈、森準人、岩男海史、白石優愛、土屋翔、小野晴子、松永玲子、マキタスポーツ、堀部圭亮
公演日:6月19日(金)〜7月5日(日)東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
7月11日(土)・12日(日)愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
7月18日(土)・19日(日)大阪・サンケイホールブリーゼ
公式サイト:
https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/keracross_7