エルサ・サアルは、女性の身体や欲望をテーマに、セラミックの可能性を追求してきたフランス人アーティストだ。『マリ・クレール』仏版と「Art Paris」が、「ブシュロン」の支援のもと創設した「Her Art Prize」の第2回受賞者に選ばれ、その自由で力強い表現が評価されている。
「Her Art Prize」は、『marie claire』仏版とパリで開催される国際的な現代アートフェア「Art Paris」が主催し、フランスを代表するジュエラー「ブシュロン」が支援するアートアワード。現代アートにおける女性アーティストの活躍を後押しし、その存在を可視化することを目的とし、昨年設立された。第2回となった今年は、フランス、ドイツ、オーストラリア、ボリビア、ナイジェリア、イラン、チリ、インド、南アフリカなど多様な文化的背景を持つ12名がファイナリストに選出。パリのグラン・パレで4月に開催されたアートフェア会期中に、彼女たちの作品が展示された。審査員は文化・クリエイション分野の専門家で構成され、今年は俳優でありアーティストでもあるルイーズ・ブルゴワンが審査委員長を務めた。
ファイナリストの中から、第2回の「Her Art Prize」を受賞したのは、フランス出身のセラミックアーティスト、エルサ・サアル。エコール・デ・ボザール(パリ国立高等美術学校)を卒業した2000年代以降、彼女は一貫して土という素材に向き合ってきた。こね、引き伸ばし、焼成し、釉薬で覆うというシンプルな工程を通じて、自らの手で制作のすべてをコントロールできるセラミックの特性を生かし、自由で自立した表現を追求している。彼女いわく、粘土はすでに一つの身体であり、無限の探求の土台なのだという。
エルサ・サアルの作品。「Dancing Twins」(2021)
©Gregory Copitet COURTESY DE L'ARTISTE ET DE LA GALERIE PAPILLON
その作風の転機となったのは、父の死と第2子出産直後に、長年勤めていた美術学校の職を理由なく失った経験だった。この出来事に強い衝撃を受けた彼女は、フェミニズムへの意識を深め、「公共空間の中心に女性の存在を取り戻し、ジェンダーのヒエラルキーを揺さぶりたい」と考えるようになったという。2012年にはその思いを体現するモニュメンタルな噴水作品を発表し、女性の身体を大胆に象徴化した表現で、セラミックを装飾の領域から政治性を帯びたものへと押し広げた。
以降、彼女の作品では乳房や女性器といったモチーフが増え、さまざまな表現を通して既存のジェンダー観を揺さぶっていく。その表現は、ときにユーモアを感じさせるような軽やかさを帯び、固定化された身体イメージを解放する力を持つ。また、美術史へのまなざしも重要な要素であり、カリフォルニアのアーティスト、ケン・プライスへのオマージュとして、有機的で感覚的なフォルムを発展させてきたほか、新たな釉薬技法によって赤らむ肌や果実の内側を思わせる質感を生み出している。
「Cow-boy cyanophile 3」(2023)
©David Bordes COURTESY DE L'ARTISTE ET DE LA GALERIE PAPILLON
さらに近年では、女性器の構造模型を初めて見た際の衝撃をきっかけに造形を発展させている。彼女は「身体そのものではなく、身体の“感覚”を表現している」と語り、フェミニズムへの意識は、活動家たちとの集団的な運動の中で育まれたという。セラミックに恍惚的で挑発的な息吹を吹き込む彼女の作品は、現代における身体表現とフェミニズムの新たな地平を切り開いている。
「Her Art Prize」賞を受賞したセラミックアーティスト、エルサ・サアル。パリにある彼女のスタジオにて
関連情報【雑誌『marie claire』のPDFマガジンダウンロードページ】©︎marie claire/photo: Pamela Tulizo / interview & text: Marion Vignal