LVMH メティエ ダールがパリで開催。和紙の多面的な魅力をひもとく特別展

Culture

2026.06.01

LVMH メティエ ダールがパリで開催。和紙の多面的な魅力をひもとく特別展

民谷螺鈿

障子や提灯(ちょうちん)、書道用紙など、古くから日本人の日常に寄り添ってきた「和紙」。いま、この独自の素材が、抹茶や盆栽といった日本文化と同様に海を越え、世界中のクリエイターたちから熱い視線を集めている。卓越した職人技の継承と発展を志すLVMHの事業部「LVMH メティエ ダール」は、日本のクラフツマンシップに焦点を当てた特別展の第2章「WASHI ~ the art of crafting paper, where tradition unlocks innovation」を開催。LVMH メティエ ダール ジャパン ディレクターの盛岡笑奈氏と、参加企業・民谷螺鈿(らでん)の民谷共路氏の言葉を通して、和紙が見せる新たな可能性に迫る。

越前和紙越前和紙

Index

ファッションから建築まで。進化する和紙の現在地

“和紙”のイメージを覆す展示

貝殻と和紙が生み出す、新しいテキスタイル


ファッションから建築まで。進化する和紙の現在地

「和紙の表情は、職人が紙を漉(す)く際の手癖やスタイルによって決まります。透き通るような薄さから重厚感のある厚みまで、そのバリエーションは無限です」と、和紙の魅力を語る盛岡氏。多くの日本人にとって、和紙は繊細な伝統工芸品というイメージが強いかもしれない。しかし実際には、システィーナ礼拝堂にある「最後の審判」など、歴史的壁画の修復にも採用されるほど、高い信頼性を誇る素材だ。

「私たちの和紙が、他国の尊い文化財を守るために役立てられていることを誇りに感じます。和紙はもはや日本だけのものではなく、世界で評価される素材なのです。洋紙の寿命は100年、和紙は1000年とも言われるほど耐久性に優れ、その秘めた強さには驚かされます」と盛岡氏は続ける。

さらに今、和紙は和紙糸や異素材との複合、箔(はく)加工、デジタル技術との融合などによって進化を続け、ファッション、インテリア、パッケージング、建築といった幅広い分野で、新たな価値を生み出す次世代素材として注目を集めている。「LVMH メティエ ダール」が和紙に着目したのも、それが単なる伝統工芸ではなく、文化的価値と産業的可能性を併せ持ち、世界のクリエイションを刺激する“未来の素材”だからだ。

「ファッションの分野では、和紙糸に絹糸など異素材を掛け合わせて織ることで、新しい風合いのテキスタイルが生まれます。和紙素材ならではの、リネンを思わせる通気性の良さやシャリ感のある質感も魅力で、夏も涼しく快適に着られるなど、その可能性の広がりを面白く感じています」

和紙表現を牽引するアーティスト、堀木エリ子氏の作品和紙表現を牽引(けんいん)するアーティスト、堀木エリ子氏の作品

“和紙”のイメージを覆す展示

「LVMH メティエ ダール」の特別展「WASHI ~ the art of crafting paper, where tradition unlocks innovation」では、和紙が持つ文化的価値と産業的可能性の双方に光を当てながら、国内外のアーティストやブランド、職人との協働を通して、その多面的な魅力を紹介。1000年以上受け継がれてきた手漉き和紙の技術に、現代的な感性や革新性を掛け合わせた本展のための特別作品も多数展示。アーティスト・堀木エリ子氏によるアートワークをはじめ、三菱UFJフィナンシャル・グループによる若手工芸作家支援プロジェクト「KOGEI ARTISTS LEAGUE」のファイナリスト3名による新作も並ぶ。さらに京都府の後援のもと、丹後地域をはじめとする京都ゆかりの職人たちも参加し、和紙の新たな表現の可能性を提示する。

「人間国宝・岩野市兵衛氏の和紙も展示することができ、“和紙とは何か”という原点を海外の方々にもきちんと伝えられると思っています」と盛岡氏。障子や提灯といった日本人には身近な存在から、和紙とは一見わからないようなテキスタイルや漆作品まで、多彩な表現が並ぶことも本展の見どころだという。「“和紙”をテーマにしていても、見た目にはまったく和紙を感じさせない作品もある。その広がりや意外性を体験していただきたいです」

民谷螺鈿民谷螺鈿

貝殻と和紙が生み出す、新しいテキスタイル

その「広がり」と「意外性」をドラマチックに体現しているのが、京都・丹後を拠点に活動する民谷螺鈿の民谷共路氏だ。まばゆい輝きを放つラグジュアリーな螺鈿。その美しさを支えているのは、和紙である。

民谷螺鈿が手がける独自の「螺鈿織」は、西陣の伝統技法「引箔(ひきはく)」の応用から生まれた。和紙に漆で金箔などを貼り、細く裁断して緯糸(よこいと)として織り込む技術をもとに、1970年代、創業者・民谷勝一郎氏は「貝殻を織物にする」という大胆な発想に挑んだ。 

 「螺鈿織は、まず和紙に薄く削った貝殻を貼り、一枚の貼り絵のような状態をつくるところから始まります。それを細く裁断し、元の順番どおりに一本一本そろえながら、緯糸として織り込んでいくのです」 と民谷共路氏はその舞台裏を明かす。

本来、硬くてもろい貝殻は、薄く削るほどポキポキと折れてしまい、そのままでは糸にはならない。そこで、貝殻を裏からホールドし「糸」へと変身させるための、なくてはならない支えとなったのが和紙だったのだ。

民谷螺鈿民谷螺鈿

民谷共路氏が本展で発表する《光の水脈 – Luminous Current》は、水の循環と、海から生まれた光の流れをテーマにした作品だ。

「民谷螺鈿ではこれまで、海に育まれた貝殻の真珠層を糸として織り込み、『光を織る』表現を追求してきました。
本作では、その真珠層の光を、水──すなわち生命の源の循環を象徴するものとして捉えています」

作品は3枚の織布によって構成されており、海、空、森、川へとつながる循環を表現。
絹と貝殻の糸が幾層にも重なり合い、呼吸するように光を反射しながら、水脈のような流れを空間の中に立ち上げている。

「日本の伝統的な引箔や織の技術を基盤としながらも、工芸を単なる装飾としてではなく、素材・光・空間の関係性を探る表現へと展開することを意識しました。《光の水脈 – Luminous Current》は、海の中で生まれた光が、水の循環のように世界を巡り、人の感覚の中へ静かに流れ込んでいく状態を、織物の中に立ち上げようとした作品です」

和紙という伝統素材は今、過去を受け継ぐだけでなく、ファッションやアートへと広がりながら、新たなクリエイションを生み出している。本展は、そんな和紙の“現在地”を体感できる貴重な機会となりそうだ。

text: Kyoko Takahashi


LVMH メティエ ダール 特別展WASHI the art of crafting paper, where tradition unlocks innovation
住所:LVMH メティエ ダール ショールーム「La Main(The Hand)」69 Rue Réaumur, Paris, France
開催期間:2026年5月28日(木)〜6月3日(水) ※一般公開は5月30日(土)のみ、5月31日(日)は休館
時間:10:00〜17:00 ※5月30日(土)は11:00〜17:00

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