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世界を読み解く視点とは【Editor’s Letter】

皆さま、はじめまして。今月より、『marie claire』および『marie claire digital』の編集長に就任しました阿部はるひです。歴史あるメディアを担うこととなり、重責への緊張感もありますが、これから読者の皆さまと新たな“旅”をご一緒できますことを大変楽しみにしております。この機会に、改めて『marie claire』の歴史を振り返ってみましょう。

創刊は1937年のパリ。当時、もっとも影響力があったとされる夕刊大衆紙『パリ・ソワール』紙と写真週刊誌『パリ・マッチ』誌の創始者であり、繊維業・毛織物業の実業家でもあったジャン・プルーヴォによって創刊されました。創刊号は50万部を売り上げ、ニューススタンドでは殺到する人々による混乱で警察が出動する事態になるほどだったとか。第二次世界大戦の始まった1939年には、発行部数はほぼ100万部に達します。

『marie claire』1954年10月号の表紙より。ストーリー性のあるビジュアルが目を引く

当初は週刊誌だった『marie claire』は、時代を先取りしたメディアとして注目を集め、ファッションやビューティの最新情報をピックアップするだけではなく、女性による女性のためのジャーナリスティックな視点を大切にしていました。“女性のバイブル”としてあらゆる年齢、あらゆる階層の女性に語りかけることを目指し、当時としては稀(まれ)な社会的平等の理念を掲げたのです。

創刊時のミッションは 、「上質で妥協のない、美の追求。ファッションを一過性の流行ではなく、文化の域へ」。これはまさに、いまの時代における「ラグジュアリー」の概念にフィットするものではないかと思います。ファッションを単なる贅沢や消費ではなく、カルチャーの文脈で捉え、そこに秘められた物語や価値を伝えていくこと。そして、本質的な「美しさ」を見極め、人生を心豊かに過ごすためのインスピレーションをお届けすること。その思いはこれからも継承していきます。

「美しさ」を見出す力

ここで、前述の「美しさ」について考えてみたいと思います。AIが急速に進化し、瞬時に完璧に近い画像や動画が生み出され、SNSをはじめとして真贋(しんがん)見分けがたい投稿が蔓延している現在。可愛らしい動物や子供の動画などは、たとえ生成AIによるものだと分かっていても感動してしまうことがあります。それはもちろん悪いことではないでしょうが、人間の感情や美意識とは何なのかと少し怖くもなります。膨大な情報とさまざまな価値観がり乱れるなかで、自分らしく心豊かに生きるのはなかなか難儀な時代となりました。そんな今、改めて大切にしたいのは、「美しさ」を見出す力を養い、自分軸とすることではないでしょうか。

先日、数学のノーベル賞といわれるアーベル賞を日本人で初めて受賞された京都大学数理解析研究所の特任教授の柏原正樹氏と、サイエンスライターの吉成真由美氏の対談動画を見ました。正直なところ、教授の研究内容については専門的すぎて理解が追いつかなかったのですが、“数学の美しさとは何か”というお話が非常に印象的でした。

吉成氏が紹介したのは、20世紀前半のイギリスを代表する数学者であるゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ(G.H. Hardy)の書いたエッセイです。彼は数学を芸術として捉え、絵画や詩、音楽といったものと同じようにその美しさと内容の重さがその価値を決める。数学者の作る様式は画家や詩人の様式と同様に美しくなくてはならないという考え方です。

また、柏原教授は、数学が美術と似ている部分もあると語り、世界的数学者で文化勲章を受章している岡潔氏の言葉についても言及しています。それは、数学は論理的であるだけでなく情緒が大事であり、人の心が分かるような感性が重要だというものでした。数学といえば完膚なき定理と計算がすべてで、むしろAI領域の真骨頂のように思ってしまいますが、真逆ともいえる“美の追求”や“感性”こそが世界を知る手がかりになるのだと、しみじみと感動しました。

さて、『marie claire』創刊の歴史に話を戻すと、1982年、フランス国外で初めて創刊されたのが日本版です。日本ならではの美意識を取り入れながら、さまざまな形式でメディアの哲学や視点をお届けしてきました。今後はデジタル版『marie claire digital』と連動した企画も発信していきますのでご期待ください。

昨年スタートしたメンバーシップ「le salon de marie claire」でもスペシャルなイベントを企画中です。直接皆さまとお会いしてコミュニケーションできる機会を増やし、それぞれの美の視点をシェアできましたら嬉しく思います。

私たち『marie claire』と一緒に、世界を読み解く「美しさ」を見つけていきましょう!

2026年4月30日 阿部はるひ

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