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'ウィンターハルター 《ロシア皇妃、マリア・アレクサンドロヴナ》 1857年、エルミタージュ美術館'

Culture

ウィンターハルター 《ロシア皇妃、マリア・アレクサンドロヴナ》 1857年、エルミタージュ美術館

ロシア皇妃の真珠、そこに秘められた意味とは

芸術の秋、絵画を通してファッションの歴史を紐解く面白さを味わってみませんか?

絵画作品に描かれる繊細な服飾は、時代を知る大きな手掛かり。名画を通じて、ロココから印象派までの西洋服飾史をたどる書籍『名画のドレス 拡大でみる60の服飾小事典』から、前編に引き続き、「真珠」にまつわるエピソードを紹介します。フォーマルな場で身に着ける宝石となった所以が明らかに。(本記事は内村理奈:著『名画のドレス 拡大でみる60の服飾小事典』(平凡社)から抜粋し作成しています)

【前編はこちら】読書の秋におすすめ本!“名画”に隠された服飾の秘密

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真珠は喜びの涙か、悲しみの涙か

 フランスのものではあるが、ロシア皇妃マリア・アレクサンドロヴナが生きた19世紀の作法書をみてみると、結婚や服喪に関する文章の中に、真珠についての言及がみられる。

 たとえばスタッフ夫人の作法書では、婚約指輪について述べる中で、「婚約者の中には真珠の指輪を恐れる者もいる。真珠は女性の涙を予兆させるからだ」と指摘しており、19世紀の後半になってもなお、真珠と涙の結びつきの深さがうかがわれる。

 いっぽうで、同じスタッフ夫人が、花嫁衣裳のことを述べる際に「花嫁の首もとには1本の真珠の首飾りを加えよう」とも言っており、花嫁の純潔さには真珠がふさわしいと思われていた。さらに、喪服について言及する中で、2年余りの長きにわたる寡婦の服喪期間の最後の時期には、「宝飾品に関しては、真珠とアメジストを用いてよい」とも記されている。

 婚約者には避け、花嫁にはふさわしく、寡婦の忌明けが近づいてくれば身につけてもよいとされる真珠には、矛盾しているようだが、女性の美しさを際立たせるなにかが秘められているように思われる。

 涙は悲しい時だけでなく幸せを感じる時にも流されるように、真珠は喜びも悲しみも引き受けてくれる宝石なのだろうか。ロシア皇妃の女性としての願いが、真珠の一粒一粒に込められているのかもしれない。

※スタッフ夫人の作法書:19世紀のフランスで人気を博した、スタッフ男爵夫人による礼儀作法書

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「真珠」の他、マリー・アントワネットが身に着けたレースや象徴的な大きなかつら、かつてのファッションアイコンであったポンパドゥール夫人、ルノワールが描いた女性が纏うヴェールや日傘などを掲載。お家時間に、読書の秋も芸術の秋も存分に堪能してみては?

内村理奈 著『名画のドレス 拡大でみる60の服飾小事典』(平凡社)

Profile

内村理奈 

うちむらりな お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(人文科学)。日本女子大学家政学部被服学科教授。専門は西洋服飾文化史。著書に『モードの身体史――近世フランスの服飾にみる清潔・ふるまい・逸脱の文化』悠書館(2013年)、『マリー・アントワネットの衣裳部屋』平凡社(2019年)などがある。

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