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読書の秋におすすめ本!“名画”に隠された服飾の秘密

芸術の秋、絵画を通してファッションの歴史を紐解く面白さを味わってみませんか?

美しい絵画作品は遠くから眺めるのもいいけれど、クローズアップすると今まで見えなかったものが見えてくる。絵画作品に描かれる服飾を通して、ロココから印象派までの西洋服飾史をたどる書籍『名画のドレス 拡大でみる60の服飾小事典』。フランスを中心とする18世紀から19世紀までの美しい絵画60点と、迫力満点の拡大画像、そしてそこに隠された服飾に関する興味深いエピソードが満載。ファッション好きも、アート好きも必見の一冊から、特別に「真珠」にまつわるストーリーを紹介します。(本記事は内村理奈:著『名画のドレス 拡大でみる60の服飾小事典』(平凡社)から抜粋し作成しています)

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ウィンターハルター
《ロシア皇妃、マリア・アレクサンドロヴナ》
1857年、エルミタージュ美術館

何世紀にも渡り愛されてきた宝石

 真珠は聖書にも登場するほど、非常に古くから美しい宝石として珍重されている。中世には、その清らかな白色や、まるで一粒の雫(しずく)のような輝きと形状から、「涙」を象徴するメランコリックな宝石として扱われてきた。16世紀に流行した『ラピデール(鉱物誌)』には「真珠は心臓に効き、体液をきれいにする」という文言がみられ、そのような効果を期待して、真珠を身につけることもあっただろう。

 17世紀頃になると、左右のどちらか一方の耳に、大きな洋梨型(大きな雫型)の真珠のイヤリングをつけるのが流行した。これは、男女共通の流行で、片方の耳に大きな真珠のイヤリングをし、長髪にリボンを結んでいるという、現代からすればフェミニンな印象も受ける洒落た騎士の姿を、この頃の版画では多く見かける。フェルメールを中心とする17世紀フランドル絵画を見れば、リボンを結び付けた一連の真珠の首飾りも多数登場するし、真珠は本当に古い時代から長く愛されてきた宝石といえるだろう。

 ウィンターハルターの描いた、《ロシア皇妃、マリア・アレクサンドロヴナ》には、いつの時代にも尊ばれてきた真珠が、これでもかというほどたくさん身につけられている。真珠は珍重されてきたものの、ここまで大胆に頭髪から胸元、そして手首に至るまでぐるぐる巻きにされている真珠は、あまり見かけたことがない。ウィンターハルターが描いた19世紀西洋の王侯貴族の多くの肖像画の中でも、際立って印象的な真珠のアクセサリーである。

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後編では、真珠が意味するのは“喜びの涙”なのか、“悲しみの涙”なのか? その秘密を探ります。

【後編はこちら】ロシア皇妃の真珠、そこに秘められた意味とは

Profile

内村理奈 

うちむらりな お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(人文科学)。日本女子大学家政学部被服学科教授。専門は西洋服飾文化史。著書に『モードの身体史――近世フランスの服飾にみる清潔・ふるまい・逸脱の文化』悠書館(2013年)、『マリー・アントワネットの衣裳部屋』平凡社(2019年)などがある。

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