ビューティーコンサルタント 須山佳子 【挑戦する女性たち #3】

Beauty

2026.07.04

ビューティーコンサルタント 須山佳子 【挑戦する女性たち #3】

Photo: Sadaharu Hoshino

日本の美容製品を世界へ、と奮闘する女性がパリにいる。須山佳子さん。日本の美容関連製品の欧州進出や普及を後押しするビューティーコンサルタントだ。自分の体と向き合い、心身をいたわりながら美しさを磨くという、西洋にはない発想がベースとなる製品を通して「日本人の美の秘訣(ひけつ)」を広めようと挑む。
Index

パリの発信拠点「Bien;」

ファッションの世界にあこがれ、パリへ

転機となった美顔器

Jビューティーを世界に


パリの発信拠点「Bien;」

2022年にオープンした「Bien;」

パリ左岸にある「Bien;」

2022年、パリ左岸のオデオン近くに「Bien;(びえん)」がオープンした。日本の化粧品をはじめ、美容関連商品や工芸品が並ぶこの店は、須山さんとデザイナーの夫、星野貞治さんが営むコンセプトショップだ。

夫の星野貞治さんと

夫の星野貞治さんと

ミニマルで温かみのあるデザインミニマルで温かみのあるデザイン

「Bien;」という店名には様々な意味が込められている。「Bi」は美、「en」は縁、円、苑などの意味があり、「美・衣・食・住」を伝えていくのが目的。商品が並ぶだけでなく、日本のさまざまな「美」を体験できる場。この空間から、世界と日本の縁をつないでいる。

店内には、日本の美意識を伝えるために工芸品も並ぶ

店内には、日本の美意識を伝えるために工芸品も並ぶ

「私は自分のことを勝手に日本の美容、Jビューティーのアンバサダーと呼んでいます。パリのみならず世界各地で日本の美容にもっと興味を持ってもらえるようにしたい」

ファッションの世界にあこがれ、パリへ

ファッションの世界にあこがれ、大学時代、ファッションショーやイベントの企画をするのが好きだった。中でも忘れられないのが、母校である東京女子大創立80周年の学園祭。卒業生で、世界的なファッションデザイナーの森英恵さんのファッションショーをしたいと思い立ち、企画書を何度も森さんに送り、直談判。夢が実現した。

「会場で森さんから『あなたのために来たわよ』と言われてすごくうれしくて。森さんが私に希望を与えてくれたように、希望を与える人間になりたかった」

モードの中心地であるパリで働きたいという夢を抱き、大学卒業後、半年間アルバイトでお金をため、2001年秋に渡仏した。

パリにいるからには、モードの頂点パリコレに少しでも関わりたいと、日本から取材にやってくるジャーナリストやカメラマンのアシスタントとして雑用をこなし、日本の染織メーカーが展示会に出展するといえば、サンプルをキャリーケースに入れて一緒に出向いた。

当時のパリコレは、マルタン・マルジェラやアレキサンダー・マックイーンら個性的なデザイナーが独創性を競い、活気に満ちていた。のちに夫となったファッションデザイナーの星野さんとも出会い、意気投合して2003年にファッションブランド「ES ORCHESTRES」をスタート。パリコレの期間中に有名ブランドのショー会場の前で、ゲリラ的にショーを行うなどして注目も集めた。寝る間も惜しんで面白いアイデアを出し合い、クリエイティブなことを生み出すのが楽しくて、苦にならなかった。

「ES ORCHESTRES」時代に作ったルックブック

「ES ORCHESTRES」時代に作ったルックブック

しかし、すべてがゼロからのスタートで、ビジネスについては素人。見よう見まねで形にしたものの、いい服を作ってもなかなか売れない。ブランドを続けていく難しさにも直面した。

「パリコレは言ってみればF1レース。優秀なチームと装備で世界に挑む。それは、ドライバーの能力の高さだけでなく、実はマネジメントがしっかりしていなければだめだと気づいたんです」

最高の成績を出すのも、ドライバーを支えるチームがあってこそ。ファッションの世界も同じで、デザイナーを支えるマネジメントという土台の重要性に気づき、ふたりで相談してブランドは休止した。

もっと経営を学びたいと、2009年、パリの大学院「INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE」に入学。一流ブランドの経営幹部が講師を務め、朝から晩までどっぷりフランス語で経営を学んだ。ついていくのがやっと。でも、毎日が新しいこととの出合いで面白く、しかも自分たちに足りなかったことが見えてきた。

転機となった美顔器

ファッション以外には関心がなかった。しかし、生活のために金も稼がなければいけない。そんなとき、展示会の通訳のアルバイトで知り合った日本の企業から「美顔器をパリで売ってほしい」という依頼が舞い込んだ。

この企業が扱うのは、美顔用ローラー。新作の服を年2回作って半年で売るという回転の速いファッション界と異なり、美顔用ローラーだけを売り続けていることに驚いた。

美容の世界は門外漢だったものの、ファッション関係で知っていたパリの「ボン・マルシェ」やロンドンの「ハロッズ」、「セルフリッジ」などの一流百貨店や専門店を、美顔ローラー持参で回った。また、パリとの時差の関係で、朝はアジア、午後はヨーロッパ、そして夜はアメリカにも売り込みの電話をした。

服の売り込みで断られるのに慣れっこ。「百に一つでも当たればいいや」との思いで電話をすると、商品が珍しいのか、面白がって会ってもくれるし、思いのほか買ってもくれる。

必死に営業をするうちに気が付いたのは、日本のビューティーブランドが知られていないという事実だった。当時、日本の美容製品の海外進出を手助けする企業も少なかった。「日本の美容製品はニッチで市場にもなかった。それだけにもっと売ることはできるはず」と確信。2010年に日本の優れた美容関連商品を欧州市場に紹介するコンサルティング会社を設立した。

顔のツボ押し棒も、自らが使って見せる

顔の筋膜リリースの棒も、自らが使って見せる

ただ、日本製品は海外ではパッケージだけでは内容がわかりにくい。効果や使い方をきちんと説明しないと購買に結びつきにくいという課題も浮かび上がった。そこで心がけたのが、わかりやすく丁寧に説明すること。「日本の化粧品が私の肌に合うのか」と不安に感じる人も多い中、ポップアップストアなどで消費者と接し、具体的に自らも使って見せながら、製品の歴史や使うことの意味なども説明。また知名度がないブランドがばらばらに出店しても注目を集めるのは難しいと判断し、ブランドを集めてパリ市内各所でポップアップストアを開催した。

そのうちのひとつ、「ボン・マルシェ」では、お客さんの話をじっくり聞き、具体的に商品の使い方なども指導しながら商品を販売したところ、売り上げが驚くほど良かった。それだけではない。担当者から感謝の言葉とともに寄せられたのが、「多くのお客さんにとって、癒やしになった」という意外な一言。サービスのきめ細やかさが他にはなく、日本の美容を強く印象づけることになったという。

新型コロナウイルスの世界的大流行で、フランス国内でもロックダウンが続いた。多くの人が不安やストレスを抱えていたときに、「ボン・マルシェ」から再びポップアップストアをやってほしいとの依頼が寄せられ、日本の美容関連商品を約1か月間販売した。

「日本の美容は単に塗ったりつけたりするのではありません。自分の体と向き合い、肌をいたわる。日本人には当たり前のことが、フランス人などには新しい概念だった。特に新型コロナウイルスの流行で、多くの人が心身共に疲弊していた時期だっただけに、よけいに説得力を持ったのかもしれません」

Jビューティーを世界に

各店の反応はいいといえども、店頭に並べているだけでは良さは伝わらない。自分自身が売り場に立ち、わかりやすく説明し、何より、お客さんの抱えている悩みを聞いて、合っている商品に的確に導こうと心がけた結果が大きな効果を生んだ。

現在、扱っている美容関連商品は16か国約150店舗で販売されるほどにまでなった。「ボン・マルシェ」には2021年に常設のコーナーが誕生し、2025年には同じくパリの高級百貨店「サマリテーヌ」にも常設の売り場も誕生。Jビューティーに対する評価は高く、引き合いも多い。

「サマリテーヌ」にできた常設売り場「ジャパン・ビューティー・マーケット」

「サマリテーヌ」にできた常設売り場「ジャパニーズ・ビューティー・マーケット」

「Bien;」では夫とふたりで創りあげた日本の美学や美意識が凝縮されている。ワークショップを行い、カウンセリングのようにひとりひとりに丁寧に対応する。やってきた人にはお茶を出し、商品は両手で手渡し。「こんなサービスは受けたことがない」と来る人が感動し、また来たいと思うようなきめ細やかなサービスだ。それだけではない。インスタグラムで毎日のように製品の宣伝をしているほか、自ら登場し、製品の使い方を実践し、説明するという力の入れようだ。
 お客さまに美容関連製品の使い方を丁寧に指導

「Bien;」でもお客さまに美容関連製品の使い方を丁寧に指導

日本の美容への関心の高まりに手応えを感じている。しかし、目の前には同じアジアの韓国が大きく立ちはだかる。「Kビューティー」と呼ばれる韓国の化粧品の輸出額は2025年に過去最高を記録。アメリカを抜き、フランスに次ぐ世界第2位の輸出国となった。影響力はトレンドではなく、メインストリームとなっている。

イタリアで毎年開催される美容関係の見本市に行けば韓国は大きなブースを構え、パリ市内でも韓国の化粧品を扱う店は増えて、人気を集めている。

「韓国は何をするにもスピードが速く、若い世代の心を捉えている。トレンドを作るのにもたけている。でも、Jビューティーの場合、自分の心や体を気にしている人たちに気づきを与える。それが長続きするんです」

海外進出を希望する日本企業からの相談が数多く寄せられる。ただ、相手を選ぶ際の自分なりの基準がある。他との違いが明確であり、日本を感じるもの。そして背景にいる人の顔やものづくりへの思いが見えるもの。何より、自分自身が面白いと思うことだという。

「時代に合わせて商品を作っているだけでは海外では戦えない。ストーリーとかこだわりとかもないと。しかも美容の世界は薬事登録も含め、準備に手間と時間がかかるため、短期間で結果を出せるものではありません」。それだけに、自分が面白いと思えるか、一緒に根気強くやっていけるかが重要だという。


8月29日から10月18日まで、「ボン・マルシェ」で行われる日本展の美容&ウェルネスコーナーをプロデュースするという大役も務める。

「パリという場所にいるから、日本を違った視点で見ることができる。Jビューティーを世界に売り込むことは。私にとって新しく、エキサイティングなこと。これからも人がやってこなかった道を進んでいきたい」

text: Izumi Miyachi(読売新聞記者)

Profile

須山佳子

東京生まれ、東京女子大を卒業後、渡仏。「INSTITUT FRANCAIS DE LA MODE」で、ブランド経営学のMBA取得。2010年、日本から欧州市場への進出、ブランド戦略、セールス、コミュニケーション専門のコンサルティング会社「デッシーニュ」設立。2016 年、Jビューティーとライフスタイルブランドをキュレーションするコンセプトプロジェクト「Bijo;」を主宰。

Tags:

Ranking

Horoscope