コスメティックの世界にも「顔が見えるものづくり」が広がりつつある。原料や産地とのつながりへのこだわりは、「美しさとは自然と人の関係そのもの」という価値観の表れであり、地域の新たな活路ともなりうる。それを体現するブランドのつくり手をたずね、肌に届くまでのストーリーを聞いたインタビュー連載。最終回は商品開発を担う倉持麻未さんと、オンとオフの両方に目を向けたクリーンビューティーブランド『アスレティア 』をひもとく。
アクティブでしなやか──。人生100年時代をヘルシーに生き抜くキーワードになりそうだ。そんな未来を見据え、2020年に誕生した『アスレティア』はスキンケアを単なる美容ではなく、心身のコンディショニングツールとして捉えている。

──「よく動き、よく休む」というコンセプトは、エキップの前社長である前澤洋介さんがチューリヒ駐在時に着想を得たそうですね。赴任先のカネボウヨーロッパのオフィスビルにはヨガスタジオがあり、就業前後に利用する社員もいたとか。さらには湖で泳ぐというのもありふれた光景だったそうです。勤勉でありながら息抜きも上手なスイスの人々のように、オンとオフの両方を慈しむ。そうしたライフスタイルを背景に、アクティブな側面にも焦点を当てたクリーンビューティーのブランドが生まれたのですね。
私が商品開発チームに合流する決め手になったのもまさに、それです。オーガニックコスメの企画と植物療法を学んだ経験からハーブや精油には、リラックスシーンだけでなく活動的な場面もサポートできるポテンシャルがあると思っていました。そんな折に『アスレティア』の構想を聞いて、まさにその通りなんです!と共感したものです。製品化にあたっては毎日のスキンケアの「tune&charge」を核にし、活動を支える「active&go」と休息に向けた「relaxing&sleep」の3つを軸にしました。オンがないとオフになりませんし、ゆるむ意味も薄れてしまいます。健やかに生きていくうえではモードの循環も大切ですから。
──ミニマルなボトルデザインも目を引きます。
ブランドロゴやパッケージデザインは、アートディレクターの東海林小百合さんによるものです。性別や年齢、肌質を問わずに使っていただきたい。その思いから、誰もが手に取れるニュートラルな佇(たたず)まいにしていただきました。容器は可能な限り再生資源やバイオ素材を用いています。2025年10月に発表した「オードパルファン」は、世界の森を守る適切な管理の目印であるFSC認証紙でできたスタンドにグリーンのガラスボトルを逆さに立てて収めています。これは“倒立しても揺らがない私”を表現しています。東海林さんからの提案を聞いた時、斬新な発想に驚くとともに腑(ふ)に落ちました。日頃から親しむヨガでも、軸がしっかりしていればどんなポーズもぶれません。それと通ずるところがあると思ったんです。


──前澤さんの思想が倉持さんらによって、形になりました。最初にできあがったプロダクトは?
ブランドの顔でもある「コアバランス オイル」と「コアバランス トーニングローション」(「tune&charge」シリーズ)です。前者は洗顔後の肌になじませて、やわらかくほぐしていきます。ワークアウトでいうところのウォームアップのような存在。肌のコアである基底膜にアプローチしながら、マッサージオイルとしても機能するよう、オイル層とエッセンス層の比率を6:4としています。
──基底膜に働きかけるアシタバ、シソ、コメ発酵液などを組み合わせた独自成分のビオ エナジェティック コンプレックスも、たっぷり含まれています。
ラボの知見をフル活用し、角質層の奥深くに働きかけるものを探りました。
──それこそが、世代や性別にとらわれずに使える鍵でもあるのでしょうか?
まさに。皮脂量や肌の厚みの差はあっても、肌の根源であることは変わりません。また、ここを鍛えることでターンオーバーも正常になり、その年齢のベストな状態へと導きます。「コアバランス オイル」は深い森を感じさせるようなアロマも特徴です。スキンケア効果の高さといい香りのバランスをとるために試行錯誤したものです。

──開発期間はどのくらいですか?
商品によって開発期間は様々です。グループにとっては初めての分野がゆえに成分選定や品質確認など長く時間をかけて処方を検討しています。自然の成分・力をテクノロジーと掛け合わせることで、より肌に届けることを目指してつくっているため、手探りが続いているのです。
原料の共通成分となる植物は、自ら耕作している。
──農薬や化学肥料を使わない循環型農園ではどんな植物を栽培しているのでしょう?
アシタバとシソを中心にゲンノショウコとブラックペパーミントを育てています。土壌づくりから行った甲斐(かい)あって、アシタバとシソは通常よりもポリフェノールが豊富です。実は栽培品種を増やそうと農場長担当へ掛け合ったことがあります。でも、返事はNOでした。

──それは、どうして?
オーガニック農法ならではの過酷な環境を生き抜ける力を持っていないと、成長できないからです。どんなに肌によいハーブでも、生産が不安定だと製品を届けられなくなります。だから現状はタフな性質を持つ4種に絞って栽培しているのです。収穫したものは農園で乾燥し、エキスを抽出します。搾りかすは数ヶ月かけて堆肥にし、土に戻しています。昨年はシソの収穫を手伝いましたが、これが毎日使う「コアバランス オイル」になっていくのだと思うと、感慨深かったですね。「athletia garden」はラボが管轄しています。植物が持つ効能を分析する研究員との会話に刺激を受けて、アイデアがひらめく瞬間もあります。
──循環型農園で栽培する植物のほかにもサスティナブルな素材を取り入れているのでしょうか?
「スイッチング アロマルームミスト N 」にブレンドしているスギの葉精油がそうです。群馬県みなかみ町で人工栽培される杉の伐採後に廃棄される葉を活用しています。また、同地で関東森林管理局、日本自然保護協会、地域住民が連携して生物多様性の復元と持続的な地域づくりを目指す「AKAYA プロジェクト」にも参加しています。
──対象年齢も性別も絞っていないとなると、常に考えていそうです。
そんな大層な感じではありませんよ。でも、同僚や友人との世間話からヒントをもらうことも多いです。着想源を自分の生活だけに絞っていると、どうしても、視野が狭くなるから。なかでもデオドラントやUVクリームなどの「active&go」シリーズは、ワークアウトやエクササイズをしている人から気付きを与えていただいています。
──「リフレッシング シャンプーバーム」を知った時に画期的だと思いました。バームを髪に塗布してなじませるだけで汚れを落として保湿もかないます。
洗い過ぎによる頭皮の乾燥を防ぎたくて、髪の洗浄もできるトリートメントを作ろうと思いました。それからずぼらな私でも簡単にケアができるものが欲しかった(笑)。トリートメントと洗浄効果を両立したいと研究員に相談したところ、オイルの種類を変えてバーム状にすることで実現しました。
こうして『アスレティア』のプロダクトは、スキンケアの枠を超えてライフスタイルへと広がってきた。
──2020年のブランド誕生から6年。10周年に向けてどのような展望を描いていますか?
オンとオフの両方を大事にすることでライフスタイルのリズムがととのうサポートをしていたいです。そうするとゆとりが生まれ、自分はもちろん周りも大切にできるようになるから。そうして10年目を迎える頃には海外でも浸透しているとうれしいですね。
アスレティア
「RMK」と「SUQQU」を展開する『エキップ』が17年ぶりの新顔として2020年に立ち上げた。オンとオフの両方に目を向けたクリーンビューティーブランドとして、次世代のライフスタイルを提案している。
photo: Tomoko Hagimoto text: Mako Matsuoka
athletia
https://www.athletia-beauty.com/