人と自然がともに美しくなるサステナブル ビューティ。マリ・クレールボーテ大賞受賞ブランドに見る

35年以上の長い歴史を持つマリ・クレール ボーテ大賞。それは、単に技術やコンセプトにすぐれた製品を讃えるものではなく、社会や人々に対し、どんな貢献をしているかを評価するものでもあった。それを象徴するのが、2000年代前半に、フランス本国で新たに設けられた「エシカル賞」という項目だ。倫理的であること、つまり化粧品ビジネスという経済活動の一方で、地球環境や人、社会、地域に配慮する姿勢を問うというもの。今でこそ、よく耳にするサステナブル（持続可能な）という理念をすでに持ち、現在のSDGsという潮流を牽引してきたといえる。

考えてみれば、私たち人間が美しく健康になろうとすることで、何かを犠牲にしてはならない。2021年度のボーテ大賞を受賞した5ブランドをはじめ、多くの化粧品ブランドが、すでにこの崇高な理念に基づき、製品開発や会社運営、消費者とのコミュニケーションに活かそうと取り組んでいる。私たち一人一人も自然も、そして今も未来も、美しさと健やかさを持続させていくことを心掛け、それを行動で示していきたい。

【ON&DO】五島列島の椿と海を守る、という使命

長崎県五島列島に自生する「椿」を軸に、製品を展開するブランドならではのSDGs活動。それは、荒廃しかけた椿林を自社農園として活用し、里山整備をすること。通常は、椿油だけを採取し、捨てられていた葉や枝、実（果皮）を化粧品原料化し、余すところなく活用。椿の花の酵母からできた独自の美容原料「温酵母」なども開発している。また五島列島は、大陸から漂流するプラスチックゴミの最終漂着地であるため、昨年から、五島列島の海を守るためのビーチクリーン活動に着手。さらに、プラスチックの使用量を減らすため、レフィル容器を推奨。FSC認証紙を用いた、糊を使わない組み立て式の外箱も採用している。

【NEAL’S YARD REMEDIES】創業時より、エシカルな理念を追求

1981年の創業以来、無駄なく、無理なく、環境や生産者に負荷がかからない仕組みを取り入れてきた、まさにエシカルなブランド。UK本社では、使い捨てプラスチックボトルを極力減らし、2008年より、企業活動において排出された同じ量の二酸化炭素を吸収するオフセット活動を実施。日本では、使用済みのブルーボトルを自主回収し、トレイなどへアップサイクルしている。また、IUCN（国際自然保護連合）のレッドリストで準絶滅危惧種に分類されるオマーン産フランキンセンスの持続的な生産を目指し、今後10年、毎年1,000本のフランキンセンスの苗を植樹。精油の抽出に必要な樹脂が採れるよう生育のサポートをしている。

【YVES SAINT LAURENT】モロッコにガーデンを設立。
地域の女性支援も

ムッシュ・サンローランのインスピレーションの源となった地、モロッコ。そこに、化粧品原料を栽培する庭園「ウリカ コミュニティ ガーデン」を設立したところにも、YSLのSDGs活動が見られる。稀少なサフランの花をはじめ、バラやレモン、アイリスなどを育み、研究所では、植物学者がそれぞれの活性分子を分析。環境に配慮したプロセスで成分を抽出している。また、植物の栽培や収穫には、地域の女性たちを採用することで、自立と生活水準向上をサポート。モロッコ産ムーンライトカクタスを使用した「ピュアショット ナイトセラム」では、レフィルを定期的に届けるサブスクリプションサービスを開始。レフィルを使用することでプラスチック消費量を95%削減することができる。

【ITRIM】日本の生産者に寄り添い、ともに育てる

「フェアトレードという言葉があること自体が、対等な関係が当たり前ではないことを意味している」ーー。なるほど、と思われる見解。そこでITRIMは、激変する自然環境と戦っている生産者に寄り添い、一緒に育てていくという姿勢をとっている。すでに生食として流通している果物や野菜ではなく、未利用部分（廃棄部分）を資源として活用することにより、生産者の保護や廃棄農園の減少を留めることに寄与。生物多様性を見据えた目標を念頭に置き、北海道の夕張メロン種子油や、長崎県のビワ葉エキス、奈良県のキクイモエキスなどの研究やオリジナル原料としての開発を進めている。

【HERMÈS】シンプルで美しく革新的なレフィルを展開

1837年の創立当初より、メゾンとその製品をつくってきた職人たちが、幾世代にもわたり受け継いできた固有の価値観を持つエルメス。そこには、責任感、真髄の探求、時と自然がもたらすものへの敬意がある。エルメスが根ざす地域やコミュニティ、天然素材を第一義と考えているのだ。2019年8月には「ファッションパクト（協定）」が、全世界のファッション・テキスタイル産業の主要企業によって締結され、エルメスも賛同。これにより、2050年までに温室効果ガス排出量をゼロにすることを宣言した。また、新たに誕生したリップスティックやチーク、またフレグランス「H24」ではレフィル式を採用。シンプルさと革新性を併せ持つエルメスの世界観にSDGsの精神が融合されている。