×

「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」ニコラ・クロワゾーシェフ インタビュー「変わらないために、変わり続ける」(後編)

®︎jiromatsushita

1977年にパリで創業した、世界的に有名なチョコレート専門店「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」。揺るぎない存在感を示し続けるこのブランドは、何を変えず、何を変えているのか。ジャーナリストの市川歩美さんによるシェフ・パティシエ・ショコラティエを務めるニコラ・クロワゾー氏へのインタビューの後編では、「変わらないために、変わり続ける」という「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」の進化と継承について語ってもらった。

アンソリット(意外性に満ちた)なショコラ

──近年、キャビアやカレーなどの素材を使ったショコラを次々と発表し、話題になりました。こうしたクリエーションの源泉は?

ニコラ・クロワゾー(以下NC) これは先にお話しした私の使命のひとつ、「明日のショコラ」を作ること、つまりショコラの未来の扉を開くことに直結しています。「INSOLITE(アンソリット)」というコレクションがありますが、これは、誰もが予想しない体験を届けるコレクションです。

──「アンソリット」には「意外性に満ちた」というような意味があります。

NC そのとおりです。2025年夏には、インドカレーのスパイスをプラリネとあわせた「アンソリット カレー」、同年秋にはキャビアをプラリネとあわせた「アンソリット キャビア」、フランスでは「アンソリット オイスター」(日本未発売)という牡蠣(かき)のミネラルを加えたガナッシュも販売しました。みなさんの好奇心や冒険心を刺激し、味がお好きかを試し、未知の体験そのものを楽しんでいただくものです。

「アンソリット キャビア」

新時代のショコラ

──時代にマッチしたショコラも開発されています。真夏の「コフレ ショコラ グラッセ」は、凍らせて味わう画期的なショコラです。

NC 地球温暖化を意識したクリエーションです。暑いとショコラが売れにくくなることもあり「凍らせるとおいしいショコラ」のアイデアを思いつきました。

冷凍しても固くなりすぎず、口どけや香りを失いません。レシピを作るのは簡単ではありませんでしたが、アイスクリームやギモーブ(マシュマロ)から発想を得て、ガナッシュに空気を含ませています。冷凍庫で凍らせるとおいしいショコラは2014年に発案し、2024年の夏に発売されました。

「コフレ ショコラ グラッセ」

──販売まで、10年かかっていますね。

NC 先駆的なアイデアは、理解されるまでに時間がかかるものです。クリエイターはその点、孤独ですね。私は常に、未来に自分を置いてショコラを作っていますが、今この時代を生きる人すべてに、すぐ理解してもらえるわけではありません。周囲を説得し、少しずつ歩み寄り、未来のためのアイデアは時間をかけて形になります。

「ガナッシュ ビーガン」

──動物由来の原材料を使わない「ガナッシュ ビーガン」はパリでも人気。定番のショコラとほとんど変わらないおいしさに驚きました。

NC このショコラが生まれたのも、私自身の変化や感覚がきっかけです。仕事柄、多くのショコラを味わうので、この先の健康を考えるようになりました。そこで、動物性の生クリームやバターの代わりにヘーゼルナッツオイルを使い、体への負担が少ない、味わい深いショコラを開発しようと思ったのです。食物繊維としてチコリファイバーを加えています。

時代に合わせてショコラを微調整

──「定番ショコラも時代に合わせて少しずつレシピを変えている」と、かつて教えてくださったことがあります。

NC アイコンとなるショコラの味を守る。それが私の第一の使命です。ただし、時代に合わせた微調整は欠かせません。

たとえば「サルバドール」は、1977年当初はフランボワーズのリキュールで香りづけしていましたが、少しずつリキュールを減らし、ピューレへ置き換えていきました。常連のお客さまを驚かせないよう、変化はゆっくりと。砂糖や油脂の量も控えめに調整しています。気づかないうちに、味わいが時代に寄り添っている――それが理想です。

®︎jiromatsushita

──サロンに、ラ・メゾン・デュ・ショコラの創始者、ロベール・ランクスさんのポートレートが掲げられています。ショコラを心から愛し、同時に仕事に厳しい方だったそうです。

NC ロベール・ランクスはよく「とてもおいしいもの以外はだめだ」と言っていました。「C’est pas mal(まあまあ)」は許されない。「Très bon(とてもおいしい)」でなければ意味がない。本当に厳しい姿勢でした。私はロベール・ランクスと10年間ともに仕事をしましたが、自分は彼によく似ていると思います。決して満足することがないのです。

たとえば、作り直す時間がもしあれば、私は迷わず少しでも良いものを作ろうとします。私の考えですが、クリエーションに「完璧」はありません。もし誰かが「これは完璧だ」と言ったら、私は少し疑ってしまいますね。それは、少し傲慢(ごうまん)かもしれません。

──ランクスさんから引き継いだ、メゾンのショコラの味の特徴は?

NC カカオにさまざまなアロマに素材を重ね、少しずつ味の変化が感じられる繊細なレシピを組み立てることです。ワインのように「おいしい」だけでなく、トップノート、ミドルノート、ラストノートがある。そんなデリケートなアロマの構成を、ショコラに映し出しています。

──どんなに時代が変わっても、メゾンが変えてはいけないものとは?

NC ココ・シャネルの「La mode se démode, le style jamais.(流行はすたれるが、スタイルは永遠に残る)」という言葉があり、ランバンの創業者、ジャンヌ・ランバンの哲学も同じでした。

ラ・メゾン・デュ・ショコラもスタイル、つまり「味」と「エレガンス」を変わることなく守り続けること。ランクスから受け継いだ「これがラ・メゾン・デュ・ショコラ」という味を守り、ファッションやトレンドを追うのでなく、パリらしいエレガンスとシックさとともに次世代へ継承する。それがあってこそ、どんな挑戦も成立します。

春の定番 日本の桜に想いを寄せて

「コフレ プランタン」は日本の春を象徴する桜がモチーフ

──日本のために作ってくださった桜のコフレが、この春も登場しました。

NC 限定のボンボン・ドゥ・ショコラは、まず桜の花が香り、次第に緑茶の風味がガナッシュから広がる「テ フルール ドゥ スリズィエ」と、ピスタチオペーストのガナッシュをミルクチョコレートと楽しめる「ピスタッシュ」の2種です。ホワイトデーのギフトにしていただいても、素敵ですね。

コフレ プランタン 10粒入 5,616円(税込)

──シェフは、桜の花を日本でご覧になったことはありますか?

NC ないんですよ。というのも、毎年、秋やバレンタインシーズンに来日、3月はフランスで仕事をする時期と重なってしまうので。フランスでは日本の桜の開花がテレビニュースになるほど有名です。映像で見ていますが、美しいですね。

──ぜひシェフに、日本の桜をご覧いただき、そのインスピレーションからショコラを創作していただきたいです。

NC そうですね。3月の終わり頃でしょうか。いつか桜の季節に日本を訪れたいです。

text: Ayumi Ichikawa

日本で先駆けて進化する「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」 ニコラ・クロワゾーシェフ インタビュー(前編)

ラ・メゾン・デュ・ショコラ
https://www.lamaisonduchocolat.com/ja_jp


ラ・メゾン・デュ・ショコラ ニュウマン高輪店
https://www.lamaisonduchocolat.com/ja_jp/stores/japan/tokyo/newoman-takanawa

Profile

市川 歩美(いちかわ・あゆみ)

ジャーナリスト
日本で唯一のチョコレートを主なテーマに掲げるジャーナリスト、コーディネーター。365日、日本国内やカカオ生産地をはじめ世界各地を取材し、最新のトレンドをメディアで発信する。チョコレート愛好家歴は約30年以上。

リンクを
コピーしました